モーさん、動く 1
『なに、納得してるんだい?』
「触手に巻かれたいと思う人たちのこと!」
真剣に考えてたから、あたしがソレだと思われた。
いやあ、この瞬間までヘラヘラした表情で緩みっぱなしだったからか。
マジで引かれた。
『妹神にそんな趣味が?! いあ、そこは転生した先がそういうトコだったと、言う可能性も』
ないです。
ありません。
無理です。
緊縛趣味じゃないです!!
『そんなに畳みかけるように拒否らなくても』
乙女神が混乱するようにまくし立ててみた。
まあ、たじろぐんだね彼女も。
◇
さて。
戦況は――芳しくない。
終焉の魔女たちにはバフによる支援活動に従事してもらうことにしたんだけども。
これが効果的だったのかがねえ。
イマイチ。
ほんと、
イマイチ、よくわからないんだ。
戦っている本人たちに、ヘロヘロになって戻ってきて。
あたし特性の元気が出るコップ酒を飲ませながら。
「どうだい、どんな手ごたえなんだい?」
って聞いて回ってみた。
まあ、なんかね。
口々に2,3回ゆっくり頭をもたげながら。
「微妙」
って返してくる。
攻撃が当たって、手応えはあるんだというんだけど。
クリーンヒットした気分じゃなく、こう、ぐにゃっと。
『ぐにゃっと?』
どうした乙女神よ。
「何か心当たりが!!」
女帝が食いつく。
目の前にあるのは姪のロウヒだ。
その中身が神様ってわけで。
『バフの量が足りないのか?』
なに言ってんだ。
聖女たるあたしも声が枯れるまで応援してるし。
世界蛇漬け込んだ1万年仕込みの元気が出る酒、配ってんだろがい!!!
あれはな。
あたしが楽しみに生前漬けた酒なんだよ。
すぽっと抜けて、自殺したんだけども。
『なるほど、それか!!』
ロウヒが可愛い声で吠えた。
見た目通りの幼女だよ、この子は。
ケモノ臭くなかったら抱っこしてやったがな。
「うちの姪はケモノじゃない! 魔女なんか潮臭いではないか!!!」
女帝とわたし、ロウヒに魔王ちゃんは同じ種族のはずだが。
なぜ嫌われてるのだろう。
「動くぞ!!」
誰かの声だ。
今までも足元にある軍隊と肉薄の白兵戦が行われ。
まあ、若干の足止め効果はになってた。
が、あの爪楊枝でチクチク表現の限界に達したのだろう――大物のやつ、とうとう気にしなくなったと見える。
『あの一歩が出るぞ』
ん?
みんなの頭の上に疑問符が浮いた。
プチプチ、プチ。
魚卵でも潰したかのような軽い音が鳴る。
いあ、そうじゃない、そうじゃない。
あれは人だ。
鎧を着ている人の音だ。
軽く聞こえるのは踏んでるやつが相当に重く、大きいから。
山動いたって表現ができそうな、ソレ。
「うああああ、聞きたくなーい」
耳を塞いでも聞こえる音。
一度耳にしたら、聞こえなくなっても感覚で感じ取れる。
吐く者が出る。
泣き叫ぶ者も出た。
――あたしは。