武王祭 騒動 4
国王の寝室へと潜り込んだ老師と三人は、王の枕元に立つ。
乱れた様子もなく、天蓋付きの御簾が下げられたベッドに老師とよく似た男が寝てた。
国王はようやくにして、50代に掛かる頃だけども。
老師の方は、80をとうに過ぎた老人である。
そんな差があるのに老師に似ているというのは――
「これは、まるで親子くらいじゃないか?」
骨格が似ている親戚って、なあ。
クローンなんて概念が無いから、そう疑ってしまうものだ。
が、老師は否定した。
「密通は、この王が生まれた直後だ」
肌を重ねたのは、という意味だ。
それ以前は、皇太后の話し相手にもなっていたか、曖昧な関係だったという。
「それでも」
「勘繰るとキリがない」
青年の言葉に二人が頷き。
老師は、余ってた枕で王の顔を覆った。
窒息死を狙ったのだ。
できれば死に顔くらいは――そう思っても致し方はない。
彼が老師に強く当たったのは、愛すべき母親が先代王に冷遇されるきっかけでしかなく。一族の面汚しとか、御落胤であるとかそうした確執の話ではない。だから、ちょっと冷静に見れば、だ。
老師だって横恋慕で愛した、女性の実子をその手で殺すことに聊かの躊躇いだってあったに違いない。
でも、だ。
そうであっても、この計画にこの王では向かなかった。
他国を巻き込み覇権国家たらんとする思想には同調できない。
臣下であれば、その枠さえも踏み越える覚悟で臨む。
ま、私怨がソコにあったと思うけど。
老師に似ているのであるとするのならば、先代王にだって現王には面影があるのだろう。
母を冷遇した男の背を見て育ったのだ。
じゃあ...。
◇
躯は密かに運び出される。
そこは秘密結社の顔の広さがものをいうわけだ。
「内官らを篭絡していたわけか」
数は知らされてないけど、秘密結社の団主が遣わせた使者は『“顔のない銀貨”で分かる』と口伝してきた。その言葉通りに、調略された者たちの方から、老師に膝を屈した。
三人とは別に動いている工作員の地均しが凄いって話。
じゃ、彼らは何だろうって。
状況のど真ん中にはあるけど、何を求められて――「未届け人...という立場かな」
って、老師が推測した。
「その推測の行き着く先は、老師の悲願達成となります。もう、後戻りはできません...」
バレれば、すべてを失うだけではない。
国王は既に謀殺した後なのだから、王位継承をめぐる骨肉の争いが始まる。
それはまた、別の意味で臨まぬ終わり方だ。
「どう転んでも、血が流れない選択はないが...祖国が侵略者として、末代まで恨まれるよりかは...回避できる。で、上手く事が運べば...うん。そうだな王の三男は聡明な子であったから、彼に王位を譲れれば、この上なく心残りもない」
って、老師が王の寝所で佇んでる。
やっぱり後ろ姿は亡くなった王と同じだ。
背中も曲げずに直立不動。
歩くその姿も80、90過ぎの爺さんって雰囲気はない。
この活力は一体、どこから来てるんだろうって。
「じゃ、王様。当日、武術大会で」
三人は、バルコニーから町中へ向けて――消えた。




