乙女神曰く、さあ、狩りを始めましょう 3
セルコットこと、あたしがこの世で一番、恐ろしいと思っている生物は。
触手がうねってる植物系モンスターだ。
自然薯獲りに山へ入ったら、だ。
そんなモンスターにパンツを剝がされて以来。
なんかうねうねが怖くなった。
だって。
縄のようにしなり、巻き付き、締め付けて。
孔を求めて這ってくる。
うああああー!!!
だめ、だめだめだめ。
考えただけで、鳥肌が立つ。
あの時は闇雲に、いあ、夢中になって火炎球をぶっぱして――
野生の自然薯系モンスターが棲息してる貴重な森が燃えた。
ちょっとした事件だったけど。
そのせいで触手はトラウマになった。
次にモーさん。
いやデミミノタウロスだ。
野生の牛だって紹介され、こいつは食えるよとも。
まさかフレッシュトマトにされた挙句、喰われそうになるとも思わなかったので次点あつかい。
そのイメージが今。
そ、今――元第三都市・ベレズニクの大地に生えて、おられる。
い~、や~、だ~。
上半身は牛、モーさん、デミミノタウロスがあって。
こう、モー、モーって鳴いている。
ダミがかった咆哮に、破壊光線のような真っ白な炎を吐く。
下半身には無数の触手が。
攻め手の攻撃をこのツタが弾くので、およそ鉄壁の守りのように見えた。
◇
――現場にも光の柱で移動した女神勢力。
乙女神のそれも、使徒のような扱いは心外なんだけど。
こんな分かり易い移動方法で、だ。
「いえ、乙女神とは実のところ距離を置きたいと思っているんで、関係ありません」なんてことが通用するはずもなく、焼け出され、傷つき、迷い、恐怖して怖気づいているか弱い市民を前に。あたしらには何が出来るのだろうか。
『祈るがよい』
おい、乙女神。
そうだ、そう。
これが乙女神の欲しかったもの。
最近の人間たちは、すべての生物は、本気の信仰をしなくなってた。
かつて天界と地上が灼かれた時、世界の管理者に向けられた祈りは『気持ちよかった』。
あれが、ない。
この純粋に『助けてください』を大合唱しているような。
いあ、ステージに立ったアイドルが受ける称賛のシャワーのようなものは神格を満たす、えもいわれぬ恍惚なさまがあった。
俗っぽく言えば、逝った。
「あんた、まさか?!」
魔王ちゃんは察しがいい。
あたしは察しの悪い。
こう、考えることを放棄したというか、隣人の脳で考えるようにしたというか。
「セルはそのままでいいから!!」
振り向きざまに、魔王ちゃんは惚気る。
お、おう。
『さて、何の事かな』
祈りのシャワーを強要して周り、
その表情が何となく、乙女ではなく娼婦いや艶狂いの女に見えた。
女帝もやや硬い表情だし。
魔女たちは引いてる雰囲気もある。
で、いっしょくたに集められた中にミロムさんたちもあった気がしたけど...