武王祭 騒動 3
「同じ師匠についた身。感覚を研ぎ澄ませろと教わったんだ! 指先でも、おまえのは柔らかくて、そして“好きだ”ぞ! まな板なんて誰が言うんだ、そ、そそそそ...そんなことは無い! 断じてない!」
こうしたやり取りは、同性同士でも宿屋の自室でやるべきだと分かる。
だってさ。
これ、ただの見せもんじゃん。
しかも晒しプレイ付きの...絶対に頭おかしいって思われるじゃんよ。
で――。
店の奥から、通りの向こうから、ついで隣り合っている、向かい合っている席から...
「よ、ご両人さん! 熱いねえ」
「言いもん見せてもらったよ!」
「純真っていいねえ」
てな具合に応援貰っちゃうんだもん。
これが恥ずかしくないやつは、とにかくアタシらの代わりに、モテ囃されてくれって感じで。
すっごい真っ赤にさせられた。
連れの女剣士なんて耐性が無いから、コチコチに固まったまま...
あたしの顔をぐじゃぐじゃに歪んだ泣き顔を見せてくる。
あららら...
すっごい鼻水垂れてる。
「花粉症?」
「ちがうよ、でも...心配ありがとう」
あ、ああ。
そこは素直なんだ。
「で、出ようか?」
王都の大通りに面した洒落たカフェで、
ま、同性同士で乳繰り合ったわけだけども...
剣士の彼女も武術大会には出るようで、
「このままだと面が、割れて」
と言ったところで...
彼女もようやく状況を察してくれた。
いや、あんな大騒ぎしといてなんだけども、さ。
ちょっと通りの角へ曲がったら、さ。
手をつないだわけよ。
指と指の間に絡める――恋人つなぎ――ちょっと、新鮮。
で、口を吸う。
「バカ、がっつくな...」
あたしに向けた、剣士の声とそむけた眼差し。
いやあ、かわいいわ、この子。
◆
賭博場に足を運んでるのは、ガムストン・レイさん。
意味が不明だけど、天パって呼ばれてる。
協会の12高弟最古参であり、ニンジン嫌いのゾディアック・マーシャルアーティストっていう肩書を...なんとなくひけらかす、我らがリーダーさまである。
給料が入ったからという、理由でただいま内縁のご婦人に内緒で賭博場に足を運んでた。
これがバレると、いささか厄介なことになるのに。
ギャンブラーというのはま、一種の病気のようなもので。
“そこに山があったら、登らなければならない”って思うのと一緒だと、屁理屈を言うのが...人種で多いそうだ。
あたしの知り合いにも居たよ。
勝ってる時の気前の良さは、ドがつくほどのお人好しで、さ。
負けた時は守銭奴。
いや、あたしはただの借金癖で。
ギャンブラーじゃあない!!!
なんかとんでもないトコからブーメラン飛んできた気がする。
ま、あれよ。
ガムストンさんは、ここのところツキに見放されてた。
だから、内縁のご婦人さんとも不仲っぽい。
今日くらいは、まっすぐ帰るべきだったと思うよ。
ポール君が覆面して、草試合に出てたのを見て...賭けちゃってた、わけよ。
ボロ勝ち。
オッズ28倍で給料が全部、金貨に変わってた。
傍から見れば、まるで錬金術みたいな変容だった――胴元に呼ばれるまでは。
「なあ、兄さんよ? ありゃ、お前の知り合いか何かか?」
覆面してても、同じパーティならば見分け位は付く。
ただ、ガムストンさんは『でかしたぞ、ポール君!!!』って叫んじゃってたんで...呼び出されたわけだ。
「い、いえ...ちっとも」
今更遅い感はあった。
が、胴元はやや寛大だった。
「獲得賞金の半分、置いてけや!」
みなまでは言わない。
半分で見逃してやる、その代わり...お前の金蔓、な。一枚、俺たちにも噛ませろよ!っていう流れの話がだ、刹那の中で行われた。
これでイヤですと言えば、
賭博会場への出入りは禁止され、
獲得した賞金額はすべて没収された挙句、掛け金だって返ってこない。
やや沈黙が流れて――
「どうすんの?」
「は、はい...」
天パ、撃沈ス!




