厄災の魔獣と、13英雄たち 7
『――放蕩娘ってんなら、魔女の方も大差ないんだけどね』
まあ、家庭の事情はどうでもいい。
流れとしては。
狂気の魔女が覚醒したのち、殻でも皮でも、こう、破るようにずるんと剝き出しに、顕わになったら“邪神”が出てくる演出が必要なのだと語ってきた。
まあね。
そういうことなら、グロテスクで。
モザイクのかかったR25相当の洋ものっぽさが必要だわ。
不本意だけど。
◇
不本意だけど。
「え? 待って。それ... 何か変じゃない?」
気づいた。
気づくんだなあ、これが。
元身体の本物のセルコットは、頭の回転が恐ろしく回る。
出涸らしにされた魔女のあたしなんて。
可愛気しかないクズですけど。
魔王ってロールがほんと。
よく合う子ですとも。
「まさか!?」
水風呂から拳を握って、どす黒い炎を召喚する。
天界での魔法ぶっぱは詠唱して現出するんじゃなく、なにもかも召喚する方向性だ。
『ちょいちょい!!』
静止、静止。
『分かった、分かったから話す。――怒りと、その......不安、不安だよねその感情は。いあ、えっと恐怖かな』
どうでもいいと、魔王ちゃんは吐く。
彼女の表情は苦く、険しい皴がよってて。
「ヒルダと後輩ちゃんは、どうしたんだ!!」
そう。
これは、この焦りは恐怖だ。
なんか良くないことが起きたんじゃないかって、ざわつきを感じる。
虫の知らせのような...
『例のアレのせいで、島大陸の西側海岸線が消し飛んだ。覚醒に至る前だから油断してたけど、今、救出するべき勇者の加護とその、全能力、ステータスの封印に全力のリソースを傾けてる。そして消し飛ばされた命も回収済みだ!!!』
ああ。
そういう。
魔王ちゃんが顔を覆って、水の中に消えた。
これの感情は、あたしも察知できる。
エルダーク・エルフの小隊とともにあるミロムさんには届かなくても。
召喚者の負の感情は、エルダークにも届くので悟られないようにしなくてはならない。
ヒルダと後輩、お爺ちゃんたちの魂は“天界”に避難させられている、と。
いあ、あたしは一瞬で知ってしまったよ。
魔王ちゃんの配慮に感謝だけど。
『あの場に、君が居ても事態は変化無かったよ』
神の声がむなしく聞こえる。
虚無だ。
『そこで再びさっきの提案。海岸線を消し飛ばせることが出来る暴力の塊を... 存在だけ、北方に飛ばす。これで土地から得るエネルギーは絶てるんだけど。問題がひとつ残ってて、贄にされた勇者ふたり分を捕食したアレは人類の存亡をかけて倒すしかない。君たちもどうにかして、その... その戦いに加わって欲しいんだよ。終焉の魔女たちはこの乙女神が責任をもって――』
大事なトコだったように思うけど。
受肉元というか、肉体が湯船から助け出されて。
女帝の侍女たちの賢明な救急活動により。
ん、
魔王ちゃんは一命を取り戻す。
意識が天界から強制離脱させられたのだ。
あの女神、仮死状態にして攫ってたようだ。
酷い。