狂気の魔女、討伐依頼 4
「あの?」
賢者がジト目で訴えてるような。
「本当に、その。我々は関係ないんですか?」
賢者のカラスはまだ、探索中で。
その対象は狂気の魔女となっている。
一刻も早く見つけ出し、その情報でハイランドが窮地に陥らないよう操作する必要があった。
いや、なんとなくソレが必要なんじゃないかって、勘だが。
「あなたも心配性ですね」
いえ。
陛下が焦ってるように見えるんです。
その顔色が。
◆
ヴァーサの国盗りは現在進行形で進められている。
例えば脅しだけにしてもリソースの無題遣いだし、仮に無駄遣いできるほどの潤沢な資源だったとしても、だ。結局どこかにスケープゴートが必要になる――ノル・ファールンが下手打ったなんて微塵にも思われてはならないし、国威ってのは評判あってのものだ。
百ある難題をひとつづ解決していけばいい。
そうして失ったリソースの回収が可能。
まあ、全部取りこぼすから。
歴史上、強大なる諸先輩方の国家は落ちぶれていったのだ。
だから今はその時ではない。
喧嘩王自身が乗り込むような事態でも、差し迫った状態でもない。
国の主導権は腕力主義で、成果主義ではないのだから。
ノル・ファールンが王国の版図が今より成長するまでまてばよい。
すっかり成長しきってから、彼の本当の国盗りが始まる。
「喧嘩王の動向は?!」
氷の結晶のような白亜の王宮で無粋な金属音が響く。
低い陽光が窓から入り込むと、宮殿内が光輝く荘厳さがある一方で、非常にまぶしいデメリット。
賓客を迎えるならこの城だが。
実務となると、ひとつ手狭な館のほうへ。
ただ、今の主人は竜人族出身で――光の乱反射する宮殿を好んで使ってた。
だってここが一番暖かいのだ。
陽光に晒されて。
「今は何も。無言のままのようです」
策をもって楽にヴァーサを攻略してやろうと豪語していた初代の王。
だが、そのヴァーサは守りを固めて徹底の構えを見せている。
策の失敗が明らかになった。
だから王国軍は当初の計画通りに、2方向作戦が始動したのだ。
喧嘩王に「無策のほうがまだマシ」と言われた、海軍元帥の献策。
「対岸の大陸では戦のさなか」
その戦争が長引くように手配し、操作しているのはノル・ファールン王国だ。
ひそかに同盟やら、密約で協力関係にまで持ち込んだ諸侯たちを動かして、戦線の拡大に努めている。
その諸侯たちにもメリットはある。
中央で戦っている貴族たちはすべて、諸侯にとってのライバルなのだ。
「あと、いく月ならば長引かせらられるか?」
両陣営が消費する物資次第だろう。
交戦している当事国のほうは、種まきができない状況だから...
「1年、あるいは7か月かと」
半島からヴァーサの長い海岸線までをひとつの踏破目標として、上陸ができれば国内の風見鶏たちもこぞって兵を投入するだろう。
もって国家総力戦に発展する。
「正面の兵力で、ヴァーサ王国軍は止められるでしょう」
2方面作戦の肝は、挟撃する海岸線を奔る別動隊の問題だ。
こっちは連邦辺境伯とハイランド王国とぶつかることになる。
決して楽な道ではないと渋い顔になってた頃。
冒険者ギルドを通じて――狂気の魔女・討伐依頼書が王宮に届いた。
「これは勝機だ!!」