あたしたちは、目立ちたい 1
「あれ? 結界が遮蔽モードになってる?!」
そこに気が付いたのは、結界製作者のあたしで最後だ。
すこし前から相当な時間がたったのに、結界を解く瞬間までまったく気が付かなかった。
まったく、だ。
呆れてるのはミロムさんだけ。
声に出さなければ、まだ可愛げもあったろうに。
そんなところだろう。
「小隊長さん、どういうこと?」
「謎の軍であると誤認させるためですな」
目立つためのお仕事だった筈で、えっと、ごめん。
話の流れに追いつけない。
◆
カラスは暫く自由に空を飛んだ。
戦場の跡地では、何者かが転移し、去った後も火の精霊の力が増しているので。
調査目的で近づく事がままならない。
《賢者にいい処を見せたかったが、これではこちらの翼が燃えてしまうな》
精霊を介して断片的な目撃談は、去った後から届いた。
戦場は激戦で、多くの精霊が魔法使いや妖術師たちによって使役され活躍した。
しかし、そうした栄光の場が突如として、炎の神のようなものに飲み込まれた。
火の精霊はその神の眷属だという。
《アホか?!》
術者さえも巻き込む圧倒的な熱量だ。
いや、御伽噺で知る伝説がある――賢者が寝かしつける時に呟いてくれたものだが。
世界を灼いたエルフの魔女の話だ。
エルフはまあ、温厚だ。
怒らせても怖いというイメージはないが、それでも短命種の間には。
森とともに住む者たちを怒らせると、すべてを焼き尽くすんだとか、或いは飲み込むんだって話す。
これは子供たちの戒めや躾けに用いられる言葉だけども。
エルフが温厚なのは、恨んでた者がふとした瞬間に死んでる時期が多いから。
根に持ってもしかたないってライフサイクルの違いからだ。
癇癪を起すエルフだってわりと多い。
半世紀後には仲直りしてることも。
《どうする? 火の精霊を操る者を探すか?!》
判断に迷ったときは。
◇
朝食を女帝とともに採った、賢者の強張りようは。
もう生きた心地がしない。
王宮にある時は、ささやかな悪戯も多めに見てくれるものだが。
彼女、女帝の前には喧嘩王の孫娘もあって。
涙目だけども――「いいんじゃない? 王国で飼うんでしょ、この娘?」と、快諾はもらえたけど。
肩の荷が下りた気はしない。
いっそ、肩の荷が増えた気さえする。
「あ、そうそう。賢者にも紹介しておきたい娘があるのよ」
ほら、きた。
そう、賢者は胸中で神に祈りをささげてた。
どこのだれの神様かは内緒だけども。
世界に喧嘩を吹っ掛けている秘密結社の幹部でも祈ることはある。
「えっと、この子がちょっと離れた姪っ子の“ロウヒ”で。...っ、あんたはどう言えばいいかしら?」
黒髪にも見える禍々しいオーラ。
一応、金髪に右横髪に白い毛が混じる、ショートヘア―な褐色のエルフ。
一瞬であればそんなところだが。
目が合ったとたんに身体が委縮するほどの恐怖というプレッシャーが当てられた。
「こらこら威嚇しないの!!」
「女帝さまが、しろと...」
フレンドリーな雰囲気だけども、力の差は金髪ショートに分がある。
「どうも~ 魔王ですぅー」
気さくな王もいたものだ。