カラスが見たもの、5
陽が上ったので、カラスは朝飯前の運動がてらに飛んだ。
さて、戦場址に向かう前に足を延ばして、南東へ向かった――視線の先に広がる広大な緑地と川。
水面に映る自分の姿に瞬きをして、
《魚にするか、小鳥にするか》
緑地と川には両方あるだろう。
記憶している精霊術と、低階梯の魔法であれば使い方次第で。
《ウサギか、いあキツネ或いはタヌキも獲れるか》
そう考えると、心が、胸が躍る気がした。
カラスでもウキウキという感情が湧く。
《いかんな、賢者さまと共有する前に腹を満たしておかねば》
そう思って少しだけ低く飛ぶ。
すると、焼け落ちた集落跡を見た――一瞬だけだが。
光が屈折する不思議なものを見た気がする。
◇
最後の見張り役のエルダーク・エルフの二人組が、結界を遮蔽化させた。
「どうした?」
小隊長が肩に手拭いを載せて問うてきた。
顔を濯いできたところで。
結界の中が少しだけ暗くなったのに気が付いたところだ。
「いえ、空から見られてた気がしましたので」
咄嗟のことだったけど。
小隊長の方は明後日でも睨むように。
「性急だったかもな。こちらは見られるのが仕事だ。こんなところにまで“ハイランド”の小隊が先行しているのだと、知らしめる必要があった。それを人の目を盗むとなると...」
怪しさが増す。
ハイランドに悪評が立つ。
で、もう少し思案して、
「どの道、我らの故郷でも国でもありませんし。戦場の異名も、悪評も、謀略に悪辣さなどは付いてもよいのではないでしょうか?(対面の小隊長が小さく頷いた)」
「だな、これは私が早とちりしたか。誰が見てたかは知らんが、大いに怪しんでもらおう」
あたしと、ミロムさんとは。
この後、30分くらいで起床した。
◇
カラスの目を借りる賢者に、当のカラスから念話が届く。
珍しい事じゃない。
彼自身に自由に飛んでもらってから憑依することが多く。
カラスの自主性を尊重しているからだが。
「怪しいと?!」
滞在している教会の宛がわれた寝所でカラスの知らせを受け取った。
怪しい球体。
半分が地中に埋まってるように見えたという。
「賢いヤツだ。その球体、お前ならどう解釈する?」
カラスとの念話は、音として解するよりもクリアで、明瞭に聞こえる。
躾けたとはいえよく理解し、流麗に話してくれる。
「そうか、なるほど...結界か」
カラスが見たのは一瞬だ。
その瞬きのような瞬間から多くの情報を仕入れてた。
軍旗があって、エルフの姿。
二人しか見えなかったけども、まるで軍隊のように感じ取れた。
調練を目撃してたから軍隊が何かを知っている。
「ハイランドは確かにエルフの国だが、エルフだけが持つスキルや、魔法への特性や耐性などを考慮すれば、他国に仕える者も少なくは無いだろう。その辺りを加味すれば」
軍旗は見えた。
しかし、旗の輪郭で内容までは見えなかった。
で、考慮すべきは他国の動向へとなる。