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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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カラスが見たもの、4

 あたしらは焼き討ちされたエルフの隠れ村へ向かった。

 連邦の王都“アルハンゲリスク”から南東へ川沿いに進むこと、3、4日くらいのとこ。

 集落があったなあくらいの焼けた森? いや、林のような木々があって。

 火力のせいで炭化した樹木が多くみられた。

 で、石作の小さな教会がある。


 屋根が藁ぶきだったようだから。

 火の回りが早かったのだろう。

 木の扉を壊して中に入って、あたしでも咽づきが止まらなかった。

 火炎球の魔女とも呼ばれたのに。

「いいえ、いいえ。こんなのに慣れてはダメ!!」

 ミロムさんの介抱に救われるあたし。

 涙が止まらない。



 女帝の怒りが今なら分かる。

 これは度し難い。



 エルダーク・エルフの小隊長さんが、仲間の中から歌の上手い子を見繕う。

 鎮魂の歌唱を披露するためだ。

 勿論、聞かせるのは死者に。


 あたしたちは、歌唱それを鼻歌でなぞっていく。

 知ってる曲で、歌ったことのある詩だ。

 魂が記憶する懐かしい旋律。

 見送った仲間、見送られた友人たち――そして、あたし自身。

「これ輪廻するもんだね」

 あたしの言葉に。

「そうですよ、来世でまた逢いましょうって流れの送る言葉です」

 今世は辛かっただろう。

 来世は幸せになりますように。

 そうした願いの込められた言葉。



 埋葬も済んで、村の中で頑丈そうな家屋に陣を置く。

 聖女としての“あたし”は、守りのことばで結界を張ること。

「暖と、食事に火は熾せません」

 小隊長はツーマンセルで、見張りの組み分けをしている中でそう告げた。

 野宿の基本だろ、焚火を囲むは。

「ここは焼き討ちされたエルフの隠里。そこに火が灯るは、死者の送り火か」

 焼いた者たちが復讐を恐れて――という流れだ。

 そうでなくとも鎮魂歌が聞かれている可能性もある。

 通りすがりの宗教家が送った可能性もあるから、スルーしてくれるだろうが。

 留まるとなると話が違ってくる。

「連邦に集っている亜人たちは迫害意識が酷く強いと、伺っております。そんな脛に傷持つ臆病どもが、長命種の集落を襲ったという事は、コンプレックスだけという話でもなく」

 劣等感ってのはこびりついた油汚れのようなものだ。

 なかなか剝がしにくい。

 ネジやボタンの掛け違いで感情的に解放されれば、自虐性が改善したりするものだけど。

 長命種のポジティブさは理解できないだろうなあ。

 10年、20年いあ、百年単位でも。

 長命種にすると瞬き程度なので忘れてしまう。

 しかも今世代だけで解決してしまうから、嫌みも通じにくい。

「ああ」

 ミロムさんからも呆れた声が漏れた。

「セルが靴下を脱ぎ散らかすのは、そういう」

 え?

「いあ、セル殿のソレは性格でしょう。些末なことは記憶に値しないってだけで。脱ぎ散らかしに風呂にも碌に入りたがらないは、もう生活サイクルの問題です。エルフは...まあ、きれい好きなんですよ、まあ大抵は」

 濁る言葉尻。

 諦めの視線。

 肩身が狭い。

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