カラスが見たもの、4
あたしらは焼き討ちされたエルフの隠れ村へ向かった。
連邦の王都“アルハンゲリスク”から南東へ川沿いに進むこと、3、4日くらいのとこ。
集落があったなあくらいの焼けた森? いや、林のような木々があって。
火力のせいで炭化した樹木が多くみられた。
で、石作の小さな教会がある。
屋根が藁ぶきだったようだから。
火の回りが早かったのだろう。
木の扉を壊して中に入って、あたしでも咽づきが止まらなかった。
火炎球の魔女とも呼ばれたのに。
「いいえ、いいえ。こんなのに慣れてはダメ!!」
ミロムさんの介抱に救われるあたし。
涙が止まらない。
女帝の怒りが今なら分かる。
これは度し難い。
◇
エルダーク・エルフの小隊長さんが、仲間の中から歌の上手い子を見繕う。
鎮魂の歌唱を披露するためだ。
勿論、聞かせるのは死者に。
あたしたちは、歌唱を鼻歌でなぞっていく。
知ってる曲で、歌ったことのある詩だ。
魂が記憶する懐かしい旋律。
見送った仲間、見送られた友人たち――そして、あたし自身。
「これ輪廻するもんだね」
あたしの言葉に。
「そうですよ、来世でまた逢いましょうって流れの送る言葉です」
今世は辛かっただろう。
来世は幸せになりますように。
そうした願いの込められた言葉。
埋葬も済んで、村の中で頑丈そうな家屋に陣を置く。
聖女としての“あたし”は、守りの詩で結界を張ること。
「暖と、食事に火は熾せません」
小隊長はツーマンセルで、見張りの組み分けをしている中でそう告げた。
野宿の基本だろ、焚火を囲むは。
「ここは焼き討ちされたエルフの隠里。そこに火が灯るは、死者の送り火か」
焼いた者たちが復讐を恐れて――という流れだ。
そうでなくとも鎮魂歌が聞かれている可能性もある。
通りすがりの宗教家が送った可能性もあるから、スルーしてくれるだろうが。
留まるとなると話が違ってくる。
「連邦に集っている亜人たちは迫害意識が酷く強いと、伺っております。そんな脛に傷持つ臆病どもが、長命種の集落を襲ったという事は、コンプレックスだけという話でもなく」
劣等感ってのはこびりついた油汚れのようなものだ。
なかなか剝がしにくい。
ネジやボタンの掛け違いで感情的に解放されれば、自虐性が改善したりするものだけど。
長命種のポジティブさは理解できないだろうなあ。
10年、20年いあ、百年単位でも。
長命種にすると瞬き程度なので忘れてしまう。
しかも今世代だけで解決してしまうから、嫌みも通じにくい。
「ああ」
ミロムさんからも呆れた声が漏れた。
「セルが靴下を脱ぎ散らかすのは、そういう」
え?
「いあ、セル殿のソレは性格でしょう。些末なことは記憶に値しないってだけで。脱ぎ散らかしに風呂にも碌に入りたがらないは、もう生活サイクルの問題です。エルフは...まあ、きれい好きなんですよ、まあ大抵は」
濁る言葉尻。
諦めの視線。
肩身が狭い。