カラスが見たもの、3
あたりを見渡して――「これ、夕暮れに近いんじゃない?」
あたしの言葉に反応した小隊長が、咳ばらいを一つの残して。
「セルコット氏がトイレに1時間も賭けるから、出発の時間がズレ込んだのですよ。もっと自覚を。魔女か或いは、聖女としての自覚を持って頂きたいです!!!」
うー。
耳が痛い。
この正論には、ミロムさんも頷いてた。
あたしの味方が居ない。
「(ミロムさんは相槌を打ちつつ)野宿する?」
四次元から取り出した“大剣”の柄を握り直しながら、じっと薄暗い大地の先に視線が向けられてた。
なになに?!
まさか、亡霊???
「いえ、野獣かと」
「あ、ええ。数は然程、気にしなくていいですけど囲まれると。随分と厄介なような」
野獣に食い散らかされた躯に悪霊が憑依すると。
即席だけど死霊が出来上がる。
動ける死霊は浮遊する霊や、魂魄を喰らって成長して――悪霊や上位の邪霊へ変貌する。
あたしたちのレベルを基準に見た時。
そうしたノーライフキングどものは敵でもない。
むしろ羽虫だが。
鬱陶しいという言葉の似合う羽虫。
つまり害虫の蝿や蚊に等しい。
「ねえ、セル」
ん?
抜刀しかけてたミロムさんの大剣が再び四次元に納められ。
まったくマジでどこに仕舞ってんだか。
すっかり手元からなくなって。
「いっちょ、火炎球放ってくれないかな?」
は?!
耳を疑った。
ちょ、ちょいちょい。
あたしは火炎球のバリエーションが多いだけの、火炎球しか投じれない魔女だけどさ。
いあ。
火炎旋風って名付けた、炎症を伴うスリップダメージがメインの魔法は使える。
これを発表して、学校で大いに笑い者になったっけなあ。
「火力は? 実のところイメージ的には漠然とした火力調整しか出来なくて。LOWかHIGHの二択だけなんだよね。で、どっちがお好みなのかな」
◇
ミロムさんの提案はシンプルだ。
すり寄ってくるゾンビと、死霊どもと飢えている野獣、魔獣の一掃だった。
もちろん火力はHIGHだ。
ガスコンロのつまみに。
『止』と『弱火』、『強火』しかないとする。
あたしのはソレなんだよ。
なぜか『中火』がない。
まあ、イメージできないんだよなあ。
きっと前世のせいだとおもう。
「肉が焼けた匂いを嗅ぐと、なんかお腹空くもんだね」
今、あたしが焼いたのはゾンビだ。
エルダークの小隊長さんの顔が引きつってたのはスルーして。
「これでお腹空くなんて、セルは大物ですね」
「そうかなあ」
「それは皮肉です」
あらら。
そっか。
あたしはズレてるのか。
「モップの先の旗印の効果的な活用法が必要です」
戦場の跡地に来た理由が実のところ、ソレなのだが。
今のところ宣伝が出来ていない。
追い剥ぎを生業とする小悪党たちに、だ。
軍旗を見つけさせて、噂させるつもりだった――そうです、そう。あたしの出発が遅くなったせいで。彼らが活動しているであろう時期、時間帯、その他もろもろに出遅れたのだ。
だから誤ったのに。
「じゃ、じゃあ」
あたしから提案。
「エルフの廃村を見に行こうよ!!」
これは、失敗だったと現地で思った。