世界を灼いた女 5
「じゃ、タネは明かされましたし。これでハイランドの民を狙うものは居なくなりますよね」
と、ロウヒを抱え上げて。
豊かなメロンを枕に寝かしつける。
おーよしよし~♪
「ちょ、ちょっと待ったー!!!」
えー。
そんな後ろ髪を引くような。
いあ、物理的に女帝は、魔王ちゃんの髪を引いて静止させた。
「抜ける、抜ける」
◇
「戦場でエルフを見たという噂が広まっても、ハイランドには何の得にも成っておらんではないか!!」
はい、その通りです。
魔王ちゃんから舌打ちが聞こえた気がするが。
女帝もそこは大人。
華麗にスルーしてくれた。
「じゃあ、何をせよ、と?」
セル・オルタが実行するのではなく。
あたしが、だよね?
「そうだな。エルフが生活に不必要な火力の火炎球を扱うのであれば、もはや姿を晒したお主以外に、あり得ぬだろうなあ。そこの存在不確かな(空間が歪むほどの膨大な魔力で、煙に巻こうとしている魔王ちゃんから視線を戻して)暗黒卿よりも実に等身大でよい素材ではないか!!」
ああ。
そういう扱いですか。
そうですか。
ちょっと複雑です。
「なに、協力してくれたら王冠、好きなだけ持たそう!」
なんだ、報酬あるなら初めに言ってよ。
ただ働きじゃないんなら。
「その代わり、火力、先ずは火力を考慮せよ」
ん?
「お前の火力は強すぎるし、高すぎるのだ。そこな戦場でオークが闊歩しておれば、お前の歩き去った荒野にはチャーシューになった豚しか残らん!」
まあ、美味しそう。
のどが鳴ったトコで、軽蔑な眼差しが。
いやあ、これはミロムさんも引いてたかなあ。
だって皮肉だったんだよね、ソレら。
◆
対岸の向こう――わずかに隣接している三国の雄“ノル・ファールン”王国。
連邦屈しの辺境伯に国境まで兵が押し戻されていた。
ハイランドから一兵も借りず、だ。
国境城塞“テーレ”。
ノル・ファールン側の監視城塞としては近年の改修も含めて近代化したばかりだけども。
野鳥の王国めいた雰囲気に格下げられていた。
美しかったカラフルな屋根もすっかり真っ白。
「糞の掃除をしろと、俺サマは言わなかったか?!」
黒雷鳥騎士団に吠える城主。
喧嘩王から砦を預かり、国内の兵を精兵にまで鍛えた者だが。
ついこの間着任した当代国王の将軍に手を焼かされている。
まあ、その愚痴の一つだ。
「鳥に言ってくださいよ」
騎士団も減らず口を。
「ならばその鳥を晩御飯にするか?!」
双方で罵り合い、にらみ合いに、殴り合いに発展しそうなとこで。
かの将軍が帰還する。
「――っ、いやあ、連邦も盛況だよなあ。全部出して手の内を見せてくれたよ!!!」
吹き抜けのエントランスで報告。
上階から、ふたりの高職の将、騎士団長と砦城主が見下ろしてきた。
「「それが手柄か!!?」」
騎士団長もおなじように吐いた。




