世界を灼いた女 4
王都南部の紛争は、連邦の内戦で一番大きな戦いだった。
過去形なのはすでにそれが終決しているからで。
ノル・ファールン王国に唆された種族たちは、圧倒的な物量と兵力を背景に少数民族と対峙して、“北ドヴィナ川”の中洲で何もかも飲み込もうとしてたわけ。
その大決戦地が灼かれたのである。
あたしがヤちった。
雌雄を賭けた戦士たちの誉れある戦場に、無慈悲なる炎が撒かれたってわけ。
ああ、あたし天国行けないかも。
「乙女神に祝福された身だから大丈夫、大丈夫。それに、エルフだから当分は死なないし」
他人事だと思って。
魔王ちゃんってたまーに毒を吐くんだよなあ。
「やり過ぎッて言葉を知らんのか!」
ロウヒって魔女の大叔母さんは動きがコロコロ変わってる。
仰ぎ見ながら掌で目を覆う。
すると、俯いて両手で顔のすべてを覆って。
やはり腕で目を、
明後日に視線を流して口元に拳が当てられ。
唇を指で詰まんで物思いに耽る。
「(両手をがっつり結んで額に当てて)火炎球の範疇じゃないのは、理解しているのか?」
あたしに鋭い視線が突き刺さってる。
木箱の中で膝を折って仕舞われたあたし。
魔王ちゃんが戦場で回収して、この箱の中が安全だと言ってた。
ミロムさんはその傍に立っている。
メイドだし、従者だからか。
「(掌をぴたりと合わせて)ま、確かに衝撃的なデビューだったわけだが。魔王よ、これとお前の関係はなんなのだ!!!」
そこ、突いちゃいます。
ミロムさんの大剣がぬっと、出てきた。
ほんと、いつも何処に仕舞ってるんだろうって思うわ。
冒険者必須の四〇元ポケットでもあるんかな?
「関係性ですか」
魔王ちゃん渋るような仕草を見せて。
「反転とでも言いますか、または別離。まあ、充電しないとイケないので、本体から長くは離れられないのも欠点でして」
つまり、と大叔母が問い。
魔王ちゃんがこくこく頷いて、
「つまり、セルコット・シェシーという肉体を共有するふたつの魂が」
「火属性に極端な加護がある方が、そもそもの魔女ではないか!!!」
この場合、セルコット・オルタ・シェシーを名乗るとしたら本来、あたしだってことになる。
でも、魔王ちゃんは自身が“オルタ”を名乗っていた。
念話を通じて『えー、かっこいいじゃんよ。セル・オルタ、うん、いいね!!』だって。
「バの付くほどの高火力の上に、異界の神が賽子を与えていましてね」
ゾロ目が出れば確実にクリティカルが発生し、与ダメは1.65倍に達する。
ベースも1.3倍で、さ。
35パーセントも加算されるのだから、火の海になる方が早いという。
あたしは、はじめての稼ぎで王冠を買って。
守護神さまにお供えした時から“神の賽子”が手元にある。
金は失くしても、賽子はいつも一緒。
不思議な縁だとおもうわね。