北方・三王国時代 ヴァーサの戦争 5
大魔女ロウヒが興した街としての名声のほかに。
魔女らしく『ボクの街に手を出した者は等しく、呪いに侵されよ』って口上がよくよく効いている。
実に四半世紀前。
ちょっかいを掛けた阿呆が出てくれた。
森の暴れん坊こと“オラオラ族”(サル系亜人オラ・ウータン種)。
異世界のサルどもだ。
人種族と同じ社会構造をもって、ウザい連中。
話し合いとは殴り合うこと。
勝利こそが正義、力こそが絶対の正義って考え方のバーサーカー。
こいつらが。
縄張りという我欲で、街を襲って返り討ちにあった。
100匹とちょっとで攻め込んで。
雷に打たれて退散。
以後、だいぶ大人しくなった。
◇
で、だ。
魔女ロウヒの下に別件の客が訪れる。
今しがたこの強力な結界を鋤いた髪のように、かき分けて侵入してきた古き魔女があって。
茶の淹れ方の指導を受けて、雑談で泣かされてた状況で。
またも珍客となると。
ロウヒも流石に心穏やかでは。
《いあ、目の前の魔王でもうお腹一杯なので、どちらか早々にお引き取りお願いしたい》
(それよりも、ロウヒのボクが... 退散するか)
「ちょっと何処へ逃げるっていうのよ?」
“巫女以外はノーサンキュー”って託けておいた衛士たちの制止も袖にして。
それが唐突に降臨した。
エルフ族の至宝にして、至高なる存在。
「うわっ!! ま、まぶ、しっ」
横に突き出た耳が大きく垂れさがり。
ロウヒは必死に部屋の隅へ走って逃げてた。
「ロウヒちゃん? 大叔母さんが遊びに来たんだから。ちょっとは御もてなし位をしっかりとね…」
あら。
女帝の声音から、意外って感情が出る。
あたしが魔王ちゃんと呼ぶ、本物のセルコットがそこに鎮座。
「世界を灼いた大魔女、いえ魔王がこんなトコに? 女帝に伏礼する義理はないってことかしら」
女の戦い。
どっちがマウントを取るかの。
格でいえば、ハイエルフの純血統種であるリヒャルディスさんが上。
いあ、エルフの至宝だから天井が見えない。
片や魔王ちゃんは、乙女神の係累。
彼女のための世界を手に入れた“純粋な力”ともいえた。
血統でいうと、あたしと同じハーフかクォーターくらいの雑種だ。
負い目がないとはいえないけど。
気にしてたかどうかは本人に聞くしかない。
「同胞の多くが死んだから、仕返しのついでにロウヒの“呪術”でも頼りに来ましたか? 女帝さま。まあ、生憎とですねえ~ ロウヒとのデートは私が先に取り付けているのです。あなたがたの児戯に、付き合い振り回されるほど暇ではないんですよ」
魔王ちゃんの挑発。
しなくてもいいのにって。
あたしは思うけど。
ロウヒが部屋の隅から隅へ走り待ってるとこで。
ぴたりと動きが止まる。
女帝と睨み合ってたふたりで――。
なんか意気投合してたっぽい。