北方・三王国時代 ヴァーサの戦争 4
「藪をつつけば、ハイランドが出てくる」
情婦が残した意味深な最期の言葉。
神代からじっと機会を伺ってきた喧嘩王と、ハイランドのエルフたち。
もっとも、欲深いという意味でいえば。
勝手に仮想敵に見立てていたのは、ノル・ファールン王国なのだ。
はみ出し者の巨人が、ひとりで興した王国。
かつての一族たちは世界とともに一度、滅んでいるにも関わらずに。
かの王は、遊び足りないのだ。
「さて、生かして捕らえるつもりであったが... どうしよう?」
宰相の膝にすがりつく好色王。
凄んで見せたのも、一世一代の大博打でしかなく。
結局、いつもの情けない王に戻る。
「この乳母を姫妃だとしてしまって、有耶無耶になるとは思えませぬ。かと言って、断罪しなければ、民は搾取していたのが王家とシコリを残したままでありますし。また、解放者だと騒いでた“革命派”も当然のように、討ち取ってしまいました」
民衆のはけ口がない。
悪女と断罪すると、外交問題が噴出する。
かの喧嘩王の孫娘に対して釈明させないまま、処断したということになるからだ。
まあ。
外からちょっかいを掛けられたら、ば。
『それは国内干渉だ!!』
突っ張り通す。
――ことが今のヴァーサ王国には国力も兵力もない。
頼みの綱だった奴隷兵が解散させられた。
◇
ヴァーサにとっての好都合は、ハイランドの不可侵条約と。
背後の“連邦”が内戦にあるという事だ。
「信心深いわけではありませんが。この時ばかりは、乙女神に感謝申し上げなくては」
宰相の言葉。
軍務卿の率いる冒険者兵団と、王都内の各所に配置した私兵1万。
※総兵力1万だけど、要所に分散配置したので各地には2千程度しかない。
「辺境伯領らからは援軍を頼めるか? のう宰相よ...」
おそらくそれは最後のツテだろう。
策士が人智を超えるってんなら。
親族の助力を絶ってくるはずで。
宰相の首が横に振られてた。
やや絶望的。
領内に魔物が出現してて、他方に回せる余裕がない。
「そうか。王都周辺の身内で対処する外、ないのだな?」
藪をつつけば――
「ハイランドは?!」
交渉ごとで訪れているハイランド使節団に意識が向けられた。
もっとも、王の方は女帝の動向について問いたかったようだが。
「精力的にこちらへ味方して、いえ、助力してくれております。およそ打算的な意図があるのは目に見えて明らかと言えましょうが。こちらとしては願ってもな、く」
「違うわ! 王だ、女王、女帝の動向が知りたい。彼女はどこに兵を向けてくる?!」
今、直下で誰に侵略されそうなのか。