北方・三王国時代 ヴァーサの戦争 3
内戦と呼ぶにはあまりにもお粗末な話だった。
いや、好色王の下でも国が瓦解しないように努めてきた、文官や大臣たちの労力の賜物と言い換えることが出来るのかもしれない。
国政に真剣に向き合う王は賢王と呼ばれるけども。
国政を顧みない王は、愚者とか暴君とかで蔑まされる。
とは言っても。
愛国者が踏ん張ってくれて何とか体裁を整えてくれるわけだ。
じつに。
なんとかして次代に繋げようとしてくれる。
この時は。
宰相と三務尚書のお手柄だが。
好色王は寝室で、姫妃の乳母とラブラブの真っ最中。
王都の外、内ので大層な激突に無関心だった。
いや。
「儂の下におるがよいぞ?! 乳母の身になにも及ぶまい、たとえ喧嘩王の策が如何に鋭い一手であろうともな。案ずるに及ばず!! なにせ、我が国には知恵者の宰相がおるでな」
なんて弱点をこともあろう。
密偵でしかない情婦に話して聞かせてた。
これで狙われない方がどうかしているわけで――「陛下もお人が悪すぎます。癇癪もちで愚鈍な王を演じつつ、配下である私に刺客を送り込ませるなんて。食客の軍師どのに守って貰えていなかったら、私、死んでたやもしれませんよ?」
寝室から隣室の客間に放り投げられる姫妃の乳母。
王の種を求めて日夜頑張ってみたこともある。
しかし。
◇
好色王は唾は付けても、宝剣を鞘から抜くことはなかった。
「儂の子である、ハーフのエルフだが、な。あれの母親は家柄とその家格こそは子爵のものだがな。血統でいえばハイランドの公爵家にまで遡れる名門なのだそうな。あれの娘は微笑みながら、そういう流れもありましたと、告げるばかりで儂に言質を取られまいとしていたがな」
まあ、そういうくだりを聞いて――
「何の関係がありますの?!」
と、噛みついて見せる。
まあ、彼女自身も一応は、貴人の身分だろうけども。
やっぱり格というものが少し違うだけで、纏う雰囲気ってのも変わってくる。
幼いけども、姫とよばれた少女にしても。
ハーフエルフの王子を産んだエルフの娘も。
纏う空気が違った。
「そうだな、王族に連なる。つまり系譜に名跡が残るというのは重責なのだ。日輪に祝福されて、玉座を手にした農民が現れたとしても、王は己の欲望を後ろに回して民の安寧に心砕く器でなくてはならんという事だ!」
それは壮大なブーメラン。
情婦が鼻で笑って、王の足元に唾を吐いた。
客室の出来事だからとしても、許される行為ではない。
けど。
「ほほ~なかなかいい面構えだ。男に尻を振るよりもいい顔になった、な」
唾を吐いた無礼は華麗にスルーして。
「しかし、なぜ、かな?」
それは何故、今なのかという問い。
可能性としては後継に、エルフ王が即位する兆しがあったからか。
継承者の多くは成人して、爵位も得て王国の国境に配置されていたか。
王都周辺にあったのが軍務卿と末子のみだからか。
「藪をつつけば、ハイランドが出てくるからだ!!」
その場で情婦は舌を噛む。
苦しみながら息絶えた。