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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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武王祭 10

 後輩の腕で立ち上がった神父は、

 こう、なんていうか...歳相応の人物に見える時がある。

「相手を少し舐めすぎてたね」

 って笑ってくれてるけど。

 胸を借りた気分になるのは、錯覚じゃないとおもう。

 あたしの剣は届いてたかに、思ったけど。

 寸でのところで、叩き落されたり。

 或いは...弾かれたような気がする。


 まあ、神父の方も――「買いかぶり過ぎだよ」って笑ってるんだけども。


 草葉の影っぽい感じの、

 そう、こっそり覗いてた神殿騎士の皆さんが...あたしの周りに集まってきてくれて。

「今回の大会に出るんですよね!」

 って、言ってくるんだけども。

 何の話ですか。

「もう、御謙遜は美徳にも、金にもなりませんことよ~」

 もう一度、聞き返しますが。

 何のことでしょうか。


 皆が小首をかしげ。

「だって...そんなに猛稽古されてるんで、つい」

 武術大会の賞金を耳にしたあたしは、その足でエントリー会場へ。

 バカ野郎!

 賞金があるってんなら、早く言えよ!!!!!


 って毒を吐いてたのは、受付事務員に対してだった。



 武王祭の裏では、国家の一大事みたいなことが、じんわりと蠢いてた。

 王国の武力は確かに、ピークに到達している。

 抱える魔法士や魔法剣士の人口比率は、他国の平均と比較して実に3:1となっていた。

 故人の力量をも平均化して考えても、倍はある。

 ()()()()というの中二病めいた言葉が、実際に出来るか否かは別にしても、現実、戦争の準備は着々という印象であった。


 夕闇に紛れ、老師は例の薬を用いて“王城”へわたる。

「陛下...?」

 奥の院へわたる国王は、衛兵たちの目にも珍しく映った。

 第一ノ宮には、国王の母がある。

 が、正室の嫉妬深さから滅多に足を向けたことがない――正室と結婚してから20数年もの間、かの王は母と面識さえしていなかった。故に、祭りの宵の口で、ふらりと立ち寄ったのかと...兵士たちは見なかったことにした。

「奥の院へ行くと言い出した時は、何を考えているのかと思ったが」

 と、和装の男は顎を撫でた。

 老師は三人を、自分の客人だと言って伴っている。

「いや、この先の皇太后には用がある」


「!!!」

 三人の動きがぴたりと止まる。

 行き交う兵士は、もういない。

 後宮には後宮の宦官というのがあるし、侍女などが武器を持って見回ってた。

 彼女らに警戒されることなく、一ノ宮へと渡った。



「失礼するよ」

 と、レースの布を避けて老師が入室した。

 御簾向こうに似た歳の女性がある。

 いや、やや彼女の方が若い感じがした。

「へ、陛下?!」

 って我が子に畏まるのは、封建社会の特徴だ。

 が、月灯で浮かび上がった男を見て――「何者である!!」――と、声が粗ぶったのには少し肝が冷えた。

「驚かせたね、私の可愛い“カモミール”」

 カモミールは、皇太后が好んでいた香草ハーブである。

 もっとも、彼女の好みは当時の王には、理解されなかったのだが。

「それを知っているという事は」


「ああ、ボクだ。兄上にボクたちの事がバレたりしなければ...」

 所謂、逢瀬の話。

 他国の姫だった彼女には、王宮内に味方が一人もいなかった。

 その時の助言者であり、友であったのが老師だった。

「過ぎたること...」

 なんか、ため息みたいなのが聞こえた。

 とりあえず彼女の中では、ひとつの区切りがついている雰囲気だ。

「もう、終わったことなのです」

 やっぱり、ひと区切りが付けられてた。

 この場合の男は、女々しいもので。

 諦めきれないってのが拗れると、面倒くさい事になりかねない。


「――で、私に何かありましたか」

 後宮の兵を呼ぶことが出来るけど、一ノ宮の騒動は二ノ宮にある正室に届いてしまう。

 正室とは言え、国王の母が男と逢引きというのは、洒落に成らない。

 が、本当に彼女の目から見ても、老師と自分の息子はよく似ていた。

「君に謝っておこうと思ってな」

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