北方・三王国時代 ハイランドの台頭 10
霊峰“ヨトゥンヘイメン”仮小屋こと、居城“ウートガルズ”城塞都市がある。
ここの主は、古の巨人族の末裔とされて。
始祖と英霊を祭るために、あえて吹雪き凍てつく大地に居城を構えている。
ぱっと思いついた言葉で飾れば、ロマンチストなのだ。
さて、この居城の玉座に腰かけてた老王は、地を揺るがすように大いに嗤ってた。
喧嘩王の差配による万全な策の瓦解する音と。
女帝リヒャルディスのほくそ笑む姿――大笑いした後にしんと沈黙、足元の盃に視線を落として、盛大に壁に叩きつけていた。我儘で、乱暴で、思慮深くて、負けず嫌い。姫妃との詰め将棋はなかなか心地の良い運びだった。
彼女が傷つき、倒れるまでも計略のひとつで。
仮に生き延びて生国に帰国できたとしても。
ヴァーサに難癖をつけて追い詰めるだけでいい。
“連邦”を焚きつけて、骨抜きにした後だから容易に攻め込むことが出来る。
そういう段取りまでしておいた...
しておいたのだ。
しておいて――再び怒りが湧き上がる。
「なぜだああああ!!!」
怒号。
普段は人族のようなサイズで過ごしている。
巨体のままだと難儀することばかりで、結果的に人サイズである事に馴れると。
居住区に困らなくて良くなった。
玉座も龍の頭骨で誂えてみたりして。
ぜいたく品なんだけど、これにヒビが入る。
ま、殴ればそうなる。
◆
“連邦”の強固な合従態勢にひびが入ったのは、先の政策のせいだろう。
ヴァーサから解放民を受け入れるという事業。
先ず、政策の大義は『同胞の救出』である――半世紀以上も、口だけの解放宣言だった施策に、予算が降りた理由は謎のまま。
長命種の代表のような、エルフと、妖精族にオーガやハイオーク、オルム、リザードなんかの鱗持ちなども政策には懐疑的だった。連邦の組織体制は、各種族、亜人種の合従という結びつきで徒党を組むことで大国に翻弄されないという趣旨だった。
結果的にだが。
奴隷民を受け入れることで、目に見えて明らかなのは食料自給率の低下である。
「そこは、ねえ。元奴隷だった彼らにも動いて貰う他はありません。だってそうでしょう? 働かざる者食うべからずって?」
フォーゲルと呼ばれた鳥族の長が翼を広げて語り。
皆の注目を集めていた。
「結局、奴隷民は雇われる主人が代わっただけなのでは?!!」
追い打ちするように鬼人が恫喝。
鳥族の長は、身を小さく細く見せて...
「ああ、いやだ。いやだ...オーガ族はそうやって、私たち小さき者たちを追い詰めるんですよね。これじゃあ、理性的な話し合いなんて出来ないじゃあ、ありませんか。そう、それでオークさんたちを焚きつけて“白海”の主要なる海岸沿いの都市に襲撃ですか?!」
違うとは言えないけど。
内戦にはなっている。
王都“アルハンゲリスク”から北方の内陸部に、小さなエルフ村がある。
各地で長命種が立ち上がる中で、息を潜めてた彼らだったけど。
周辺部族から逆に攻め込まれて村が焼け落ちるって流れにもなっていた。
生き残ったエルフの若者は、その場で奴隷民に落とされたという。
◆
ロウヒ用の切り株椅子に腰かけ、ロウヒお気に入りのマグカップで珈琲を啜る魔王と。
対面にて正座させられてる幼女の魔女。
ハイランド王国の南下を告げる知らせを持ってきた近習が息を呑む。
「えっと、これはどちらに?」
魔王は。
「魔女の部下でしょ? ならそこでチビちゃった可愛い娘に報告してあげたら?」