北方・三王国時代 ハイランドの台頭 6
天高く飛ぶカラスの群れ。
亜人族の間では、魔女による祝福だって謂われがあって。
戦場に向かう兵士たちに“勝利”が約束されたというのだ。
不吉なとか、マイナスなイメージはない。
だって、勝利者の下にじゃなく。
敗者の躯に集まるのだから。もし、彼らが地べたから行軍する兵団を迎えたのであれば――それは、その兵の死が告げられたと同義で、不吉とされてた。
これが異文化だ。
そのカラスの目を借りて、軍団を観察するものがある。
“煙水晶”の賢者だ。
彼の持ちうる術のひとつ。
術者本人が予めにマーキングしておく必要があるのだけども。
カラスは頭のいい動物だ。
魔女じゃなくても、飼育している者はわりと多い。
賢者もそのひとり。
『なるほど、不満に持つ者は少なくないということか』
奴隷を解放させる。
これらは事業として合従会議にて決した。
政治的圧力による議会誘導。
この政治は勢力図に置き換えられる。
ハイランドの民であるエルフ族の氏族も他方に散っていても、個体数が多いわけじゃない。
人並みに精力も活力もあって、子を為す能力もあるけど。
数百年に数回しか一気に増えないし。
平和の御代が百年あったとして、エルフ族全体で千個体は行かない。
逆に他種族は万をも超える。
まあ、寿命で交代劇はあっても。
減ったら増えるまでのサイクルが違い過ぎる。
オーガ族もハイオーガ、エンシェントオーガと上位種へ迫ると、不老に近くなって勢力図が小さくなる。エルフと似た境遇に悩まされる。
故に、他種族交配を模索したのだが。
血統劣化も目を覆う。
オーガ族の血統能力を引き継いで、別の種族に進化するパターンだ。
これは他種族交配を試みた、ハイオークにもみられて。
種族の危機に発展した。
人口比率で発言権の強弱が決まる社会構造に一石を投じるべく。
とうとう、力持つ者たちが動き出したという。
◇
俯いたままのコボルトを気遣い、オークの青年が語り掛けている。
カラスの目を借りてる間の賢者は、どちらの制御も甘くなってしまう。
これが欠点のひとつ。
教会で瞑想している本体はまだ、いい。
軍事教練のプランを練ると、部屋に閉じこもった軍師も。
蒸し風呂で青く、ひどく澱んだ目になってたコボルトはダメだ。
オークの青年に身体を揺すられて、ぐったり伸びてしまった。
もともと半死半生の肉体だから。
生物に備わる“生きている証明”たる反応が小さいのだ。
「ヤバい、ヤバい、ヤバい~ 姉ちゃん、ヤバいよ~!!」
女湯に飛び込んだ青年は地獄を見た。
まあそれは最悪にして、眼福。
姉の裸体でオス反応を示し、他部族の裸体も拝めてちょーラッキー。
「誰だい?! この馬鹿を送り込んだのは!!!」
オーガの姐さんが、伸びたオークの青年を床に放り捨てて。
オークに、ドワーフ、デミミノタに、ジャイアントの姐さん方が揃い集う。
圧が違うな、圧が。
「あ、ど、どう、も...支配人です。オークのお兄さんのツレが倒れたんで、その」
青年の姉へ伝言を頼んだという。
まさか動転して風呂にまで飛び込むなんて思ってもいない。
支配人はサルの獣人。
コボルトを介抱してた。
「この方、虫の息なんですけど?」