北方・三王国時代 ハイランドの台頭 5
“大天使の街”――アルハンゲリスクって地がある。
冬のある日に分厚い雲が割れて、神々しいまでの光のシャワーが降り注ぐって詩があって。
“連邦”の王都がそこにある。
王のいない形ばかりの王城と、王妃もいない奥の院たる後宮もあって。
とにかく形だけの施設がただ運用されている現実。
“連邦”は各部族長が議員として発言権と拒否権を持つ共和制。
合議で物事の流れを決しているのだ。
先進的に聞こえるけども。
実のところ、そうでもない。
種族ごとの力関係はしっかりあるし、一律平等ってわけでもない。
ごこへ行っても『政治』からは逃れられないのだ。
優劣が無いと評した切れ目のない卓上――円卓につく族長たち――ぐるりと見渡して、ひと癖もふた癖もある有象無象の兵ども。
これは戦争であって、決して馴れ合いではない。
「さて、今回の議題は」
議長の言葉を遮ったのは、オーク族。
腕を組み、天井を仰いでいるはいーくは無関心であると装った。
「合議は神聖な」
ワードック族長が議会進行役なんだけども、二度。
二度とも彼の言葉を遮り、
「先月から、王国から奴隷民を解放している件でひとつ、大事な問題がある!!」
オーク族とオーガ族は仲が悪いんだけども。
同じ流れで、森の境に棲んでいるという点で、エルフ達とも良好というわけじゃない。
互いに森で遭遇しあうと、軽蔑の証として地面に唾を吐くという行為があって。
とにかくオーガ以上に互いで罵り合ってた。
「っ、それが?」
「王国の奴隷民どもは追放するか、送り返してくれぬか?」
議題に上がった時は、反対意見のひとつも出さなかったオーク族だが。
ひと月足らずで手のひら返し。
「なぜだ!? 事業としてはまずまずの成果じゃろうて」
推進派のドワーフ族。
同胞の解放は悲願だった。
「そうか? 命令を待つ人形が増えた程度にしか思えん。すでに金も持っていないのに無銭飲食に、窃盗や傷害まがいの犯罪に手を染めた者もある。娼館では避妊せなんだ者も、な」
円卓がざわつく。
「こやつ! エルフに唆されたか!!!」
くだんのエルフと仲が最悪だってのに戻る。
「はて?」
◇
亜人族“連邦”共和国――どうしても、人族と同じような社会性があるのに、忌み嫌われ怖がられてしまう種族たちを中心に、縦割り階級制の箱に、族長同士は平等とした理想が詰め込まれた。
が、構造は面白い実験だった。
性格の不一致により腐敗の進捗が早く、早晩、瓦解の恐れが見えてた。
さて、誰が裏切ったのか。
喧嘩王の手先になったのか、だが。
獣人族の繁栄ぶりは目覚ましいものがあった。
オーク族やオーガ族は、1世帯で1ないし2の個体が産声を上げて、成人までに全体の半数が死ぬ。
奇病だ。
種族の宿命のような病で死ぬのだ。
エルフの手を借りてようやく半数でとどめて居る。
そんな恩人だけども、連邦の目が光る前では軽蔑しあわねばならない。
理由は“連邦”の一員だからだ。