北方・三王国時代 ハイランドの台頭 3
ノル・ファールンでも深部にまで到達できない地はいくつかある。
ハイランドもそうだし。
亜人族が合従している“連邦”という国もだ。
国家として捉えていいのかは、早計かもしれないが。
各種族、各亜人ごとに、外交窓口があるわけではないので『集団』としての最低限な体裁めいたものがあるとみていい。ただし、短期決戦が双方に好ましい条件であると思われる。
さて。
こと“連邦”の外見的印象操作はこのあたり。
内向きでの“連邦”は、システマティックな共和制で政治が動いていた。
“煙水晶”の賢者の意識は、戦場で意識を失ったコボルトの雑兵の中にある――腕の傷がジンジン響く痛みで、膿んでいるようだ。また悪臭がするのは血を浴びて、7日以上も風呂に入っていないからであるし。
額のかすり傷で負った血が左目に入って、開かなくなった頃。
“連邦”領域である“ロウヒ”へ転がり込んだ。
魔女ロウヒが街を興したって噂の小さな荘園だが。
ささやかな柵で囲まれた素朴な外観とのギャップがすごかった。
しばらく茫然に街と街道の境で立ち止まってたら、オークの女性に助けられてしまった。
ま、もともと酷い戦場帰りの傷持ち兵だから。
咄嗟にどうこう出来る瞬発力も、
腹の虫が盛大に叫び。
助けてくれたオークと、門番が大笑いしてた。
「こんな道の真ん中で突っ立てったら、さ。あんた、小さいんだから軍馬に轢かれちまうよ!!」
ああ、まあ。
「戦場帰りか、珍しいな」
小競り合いが、じゃない。
瀕死になるまで殺しあったような紛争が、ちかいところで無かったという意味。
この身体の持ち主は、ラドガ海を渡ってきた。
なぜ、ヴァーサの国境まで来たのかは分からないが。
喧嘩王の盤面に上がってない小物でいえば。
賢者が使える裁量の手。
死に掛けの身体を自由に動かせるとは、まあ、誰も思わないだろう。
「気が付いたら、ここに」
流石に警戒されそうな軽率すぎる返しだった。
だが、門番とオークの女性は顔を見合わせて――やっぱり不謹慎にも豪快に笑い飛ばしてくれた。
「みんな、そんなもんだって!! たぶん、あんたもその形だ。どこかで楽園みたいな話を聞きかじってここへ流れ着いた口なんだろ? でもさあ、その悪臭と傷、膿んでるのを何とかしなくちゃならないねえ」
痛みが無いわけじゃない。
麻痺するほどの空腹と脱力と無気力によって、コボルトの表情が今にも死にそうなのが。
まあ、鬼気迫るに見えたんだろう。
演技だとしたら、そいつは世紀のアホか名優か。
ガチで心配されて、無表情。
警戒されることなく“ロウヒ”へ潜入できた。




