武王祭 9
木剣相手に、鉄の剣が負けそうになる。
いや、実に面白い。
神父がもっているのはタダの木剣。
本当に木剣なんだよね。
不思議がってたら、振らせてくれる機会を貰ってね。
で、軽く素振りさせてもらった。
結論!
あたしの鉄の剣は、木剣にガタガタ言わされてた。
バカか、あたし。
これ強化魔法の類、使われてるじゃんよ、て。
肉体強化スキルは、種明かしをすると...自己暗示そのものだ。
“腕力強化”とか“脚力強化”とかってのも、普段セーブしてしている枷みたいのを、自分の意思で自由に解き放たれる、鍛錬してきた者たち技術なわけだ。確かに許容できる条件とか、タイムリミット、或いは回数なんてのは、ある。
だって普段セーブされてる能力なのだから、身体に問題がない訳じゃあない。
瞬間的に引き出すから、爆発力も上がる訳だ。
で、これの技術には応用法があった。
それが武器や防具のポテンシャル向上ってスキル。
但し、人の能力を引き出すのと同じだから、武器や防具の方もリスクを背負ってる。
そのリスクは...
「おっと済まん! 折れる」
って神父が告げると、
木剣は粉々に砕け散った。
これが、武具強化スキルのリスクだ。
エンチャントマジックでは、こうならない。
魔法は属性や魔法の膜、いやオーラみたいなのを纏わせる、イメージ的に。
で、そのオーラの力で強化する。
対象のポテンシャルを限界まで、引き上げる事はしない。
「じゃ、もう一回!」
剣術のレベルでも、武器や防具などの使い方でも、神父は強い。
王都の主要街道から、少し離れた小道に食堂と宿屋を経営する主人には見えない。
「その浮かない表情は私のこと、考えてる...かな?」
って見透かされた。
そりゃ、こんなに強い剣客はなかなかに――
「神父でも武具に長ける人は多いもんだよ? 従軍する神父も自分の身を守れないと、ね。...過酷な場所で働いてる者は多くはない。私の店は、ほら...ちょっとガラの悪い客も多いから」
で、はぐらかせるとも思えない。
ただ、単純に聖堂騎士のひとりひとりは、強かった。
クリシュナムの件では、秘密結社に寝返った人などもあって...実際に対峙したのは教会同士だったし。
「セルコットさんは強いね、これは場数が違うと思わされる」
「いえ、そんな」
謙遜したつもりはない。
ポキって、肩だか首の骨を鳴らす神父。
「紅くんからの報告書は、読ませてもらっている。――ただ、剣を使えるとは、無かったからコレは私、個人の感想だが...君、何者なんだい?!」
打ち込んでくる重さが変わる。
あたしも、まともに受けたら腕がイカレそうなほどの痛みがある。
流そう、受け流そうって動くと。
そうさせまいとする一撃が来る。
先の先とかいう、アレか。
達人クラスだと再認識させられる。
神父は、神殿騎士団の師匠なんだって。
ああ、そういうことか...
◇
広場の端で尻をつく神父がある。
両の掌を見ながら、震える人がある。
「刃引きされてたら...」
《間違いなく胴がふたつ、間違いない。これは...“王国式抜刀術”か?!》
あたしも記憶が一部とんでる気がする。
神父と同じような感覚で。
なんて言うか...こう、身に入ってこない感覚?
後輩が声を掛けてくれなかったら、
ちょっと、どう行動してたかも分からない。
「朝稽古ですか?」
って...間抜けな質問だけども、それが、それでいいんだと思う。
「ああ、紅くん」
尻をついてる神父さんが、彼女の手を借りて立ち上がってた。
いやあ、なんか...ごめんなさい。




