北方・三王国時代 ハイランドの台頭 2
ヘルシンキ公爵は、ヴァーサ王の縁者。
自領にはよく鍛えた私兵が万単位で用意されていて、王国全体から見ても肥沃な農地が広がっている。
身内贔屓しない王なら、きっと面白くないだろうな。
三国最強の奴隷兵って最終兵器があるのに、だ。
身内の芝生が青々としている事実と、底なしの傲慢さが仇になる瞬間。
守るべき市民が敵になる瞬間。
公爵の背は誰が守ってくれるのか。
◇
「それって」
「好色王はアテにならないから、姫妃にも舞台に上がって貰うんだよ。ま、もちろん彼女は世紀の悪女だ。表立ってではなく...我が国の百人隊長として英雄になってもらうのさ」
苦肉の策だ。
苦肉だが幸いに、この姫、いや...幼い妃は公式以外表に出てなかった事が、だ。
幸運だった。
これで妃として、乳母一人になる寸法。
そもそも王族の篭絡から始めた一手なのだから、篭絡した者が残って当然だろう。
それでも。
姫妃を王城から出すのはわりと力業になりそうだ。
「ふむ(短い舌で唇を舐める)、侍女にはわたしのような幼き女性もあるから服を用意させられた...が。(下からずいっと、上目遣いにのぞき込んでくる圧が幼女にもあって)その、百人将なる部隊長か? わたしにも務まるのかい?」
もっともな質問だ。
教会の2階を宿舎にしていたお蔭で。
密会は教会内で行える。
乳母には『陛下に新たな男子が出来たら、御爺さまの国盗りが助かるかも』なんて吹聴して信じ込ませてある。
こういう調略は欲深い人間に効果的で。
その先の幸せな夢でずっと妄想できるのだから。
なんというか...
「えげつないっすね」
言うな、弟子よ。
姫の眉間に皴が。
「国母になる夢まで見せたの、王権と一族を貶めるのはこれくらいで十分じゃない? もっとも乳母の家も子爵家で、紋章院に貢献した騎士の者。生国の乳兄弟たちも立派に騎士爵を拝して、国王に仕えていると聞き及んでいるから。いずれにせよ(遠い故郷に視線を向けて)乳母は幸せなのよ」
喧嘩王の手駒となった女に、生存権は無いだろう。
王族を篭絡したのだ。
それなりの代償が払わされる。
良くて毒殺か。
あるいは姫妃として死ぬか、だ。
こちらは後者を狙っている。
姫そのものは火種になるからで、喧嘩王の大義に真っ向から拒絶できる生き証人でもある。
生きていた、或いは、生きながらえた。
こんなフレーズで燻って火が風に乗って大火になる。
謀略の王でも心休まらんだろう、な。
「それで、囲うんですか?」
いや。
むしろ、陛下へのお土産にちかい感覚だな。
彼女の真似でもして――「いい娘を見つけてきました、陛下のご幼女に如何でしょうか?」なんて突き出してみるのも一興かもしれない。あの人、かわいい物好きだからなあ。
得体のしれない爺の孫、面白がって手懐けちまいそうだな。
「利用するためだ」
ここはドライに返しておこう。