北方・三王国時代 ヴァーサを救え 5
「我々と協力すると?」
むしろ、お願いのような言の葉で告げられた“協力”。
共同戦線とも置き換えられるだろうか。
「祖父の手に落ちた乳母の仕業ですから。ここらへんで私も、そろそろ静かに退場したいのです」
喧嘩王の盤上から自死のない降板で、幕を閉じたいって事だろう。
王族だからどこへ行っても目立ってしまう。
簡単に降りれそうにはないが。
「――いや、そこは。我が陛下の、か」
魔法の大家。
エルフ国の女王が仕切るかもしれない。
いあ、面白がって傍に置くだろうなあ。
「なにか?」
「して、協力するにあたってですが」
こちらの、ハイランド側の意図はすでに推測済みだろう。
干渉してこないと思ってた勢力の登場で、流れが変わったのだから。
こうも大胆に動いたのだ。
◇
今まで、国王から贈られた宝物は皆、よく似た偽物へと挿げ替えてある。
姫妃の生国から彼女自身が開拓して、育ててきた商会に買い取らせて、備蓄金しておいた。
出所の分かりやすい宝飾品は一点物が殆どで。
再加工でもしない限りは二束三文になる。
姫妃は商会を育てるうえで学んだようだ。
まあなんとも、頼もしい人だ。
若いのに。
「陛下からの贈り物の殆どは、乳母が強請ったものですからね。あの人は今でも自分の手元にある黄金や首飾りが、偽物だって気が付いていないと思います。そういう意味ではとても幸せな人生じゃないかなって」
寂しそうにもみえたが。
喧嘩王の盤上に話が。
自分の血を引く王族が傷つけられたことへの報復。
これがかの王の大義名分となる。
「だとすれば、誰でもいいのでは?」
極論だけど。
姫妃が民衆の前に現れるのは公式行事くらい。
しかも遠目なので民衆にとっては、衣が似てるだけで成立しそうだ。
乳母でも本人でも、それ以外でも。
「まあ、確かに。首実検か、検分は事が為された事後のこと」
姫妃でなくても...
事後の検分でも、相違ないってことにされ。
結果、姫の処分は“死亡”から逃れられない。
「生国には」
「戻れないのは、分かってましたよ?」
最後の言葉を紡ぐとき。
少し間があった気がする。
「事後は、リヒャルディス陛下にめい一杯媚びを売ってください。あの人、かわいい物には目がないのできっと、悪いようにはしませんよ」
まあ、これは本当のことだし。
あの人の周りには猫が沢山いる。
すぐ、拾ってくるんだよなあ。
「では、軍資金ですが」
「奴隷兵の解放は待ったなしなので、その職業軍人らを買い戻しましょう!!」
莫大な軍資金がこちらにはある。
それこそヴァーサの国庫に眠ってた頃よりも多く。
最初の元手は宝飾品の売価。
先のように一点ものは売却益が少なる傾向がある。
育てた商会でも買取が渋られたほどに難儀だったが、商魂逞しいというか。
姫妃はそれらを元手に投資したんだという。
結果、中央欧州の小競り合いで、ひと儲け為したそうだ。
投資方法は明かさなかったが。
関わった商人たちとWin-Winだって話だから。
『さて、反撃と行こうかねえ~』