北方・三王国時代 乱世 9
ノル・ファールン王国と国境接点はわずかに200キロメートル前後。
ナーロッパ北部にひしめき合う豪族たちの国境線と比較しても、猫の額ほどもない。
代わりにほぼすべて対面が“ノル・ファールン”というのは、連邦の辺境伯領だ。
飛び地な領土になってしまったのは、ヴァーサ王国のせいでもある。
辺境伯領は北方三雄にぐるりと囲まれてる立地。
じゃあ、どこかが結託すれば、陥落も容易かと思ってもいざ行動とはいかない。
屈強な獣人族が睨みを利かせている、獣たちの国。
の...
一部。
先にヴァーサのせいだとしたのも。
極北の半島においてヴァーサは海岸線の統一に執念を燃やした時期がある。
現好色王の祖父王にあたる。
ざっと60か70年前の話だ。
ラドガ海近郊にあった王国が、北上して獣人国とハイランド王国に喧嘩を吹っ掛けた戦乱の時代。
それは激しい30年戦争史だったという。
今世の王国の危機とは別だが。
夢半ばにして祖父王は崩御して、戦後の有耶無耶のうちに戦地の割譲、その結果。
飛び地が生まれてしまった。
まあ、辺境伯領とハイランドが相互防衛で条約を結んでいるので。
ヴァーサも迂闊に手が出せなくなったわけだ。
で、だ。
ヴァーサ王家は、
征服王か、好色王のいずれかしか戴冠できない呪いでもかかってるのか。
そんな王が多い。
今時代の王は好色家だ。
若い姫妃の他に、100を数える側妾があって。
亜人の妾も1ダースはいるという。
もう、どんだけ締まりがないんだよ。
◇
「誠ですか?!」
チェストから滑り落ちそうだった、賢者が寸でのとこで持ち直した。
座りなおして、
「喧嘩王め、ただ単に方々に婿だの嫁だのと手広く跡取りを放出してた訳ではないという事だ、な」
喧嘩王は巨人族の出で、エルフに並ぶ長命種。
あの御仁だけなら軽く千年は生きるかもと、揶揄われていた時期もある。
「では、? れ...」
「あ、いや。それは余の者たちだ。賢者、何かと眠そうで...しかも、何処かへふらりと同窓会とかに出てたじゃろ? 話す暇も、計画を練る期間も無かったから抜いてたんだわ」
すまぬな、の一言が返ってきた。
いやいやそうじゃない。
そういう簡単な話じゃない。
「ちょっと待ってください。まさ...」
「うむ考えが読めるのは面白いな。それも違うのじゃ、え~と、それは偶然というか...」
たまたま合致した。
争乱の火種が何気にヴァーサで花開いたのだという。
かの王国の飢饉は予測できたことだったらしい。
本職の農家たちが次々と奴隷抱えの大家へと代わり、自分たちの麦畑さえも碌に見なくなった。
収穫の時だけ、その肥えた目で卑しく検分するのだ。
畑が瘦せていることにも気が付かずに、だ。
「好色王に姫妃を嫁がせ、いや。これは謀略ですから...実際には手も出させてないでしょうなあ」
「そのようだな。暗部の調べでは、ここ最近の王は胸を激しく掻いていると聞く」
患わせたのだろう。
毒の可能性は高い。
で、あれば――
「好色王の絶倫と、人種に区別なく、孔があれば突っ込みたくなる習性に助かりましてございます」




