北方・三王国時代 乱世 8
ハイランドに意識を戻した賢者の前に女帝が。
「よい夢は見れたか?」
うたた寝みたいなものだけど。
仮にも男性の部屋に女性代表みたいな、陛下が足を運ぶのは異例である。
噂好きの侍女なんかが見たら。
「そのあたりの詮索はするな、たとえ、何もないことが分かっている賢者自身もだが。知れば後戻りのできない負の感情に吞まれぬとも言えぬでな。して、魔法長者の我らがエンシェントに仕える人外なる子よ――お前の千里眼で見えぬものはないと思って暫し問う」
少し気を遣ったような口調が気にかかるが。
賢者はチェストの上で座りなおしてた。
ベッドで横になるほどの楽な姿勢は必要がないから。
少々固いチェストの上にクッションを置いて横になってた。
「さて、見渡せる距離や...ま、時間などにも阻まれることの多い不完全な眼ですが」
ちょっとした前置き。
何でもできますよは、古代種のハイエルフを前にして不遜すぎる。
ここは少し遜るくらいがちょうどいい。
「言葉にもないことを。よい、今回は赦す、余が求めるは南の王国のことだ。ここ最近の様子について」
◇
ハイランドの暗部とて、ハーフエルフなどの亜人が中心だ。
ナーロッパ極北の大地では、三国ともに亜人への保護政策がまったく違っている。
ハイランドとノル・ファールンは寛容、いや寛大で後者の王国では玉座を温めているのが、亜人だって話もある。
最も極北統一を掲げている以上は、国王から一丸となって。
いちばん強い戦士が王である。
この政策に賭けているということなのだろう。
そこで別の道を行く、ヴァーサ王国だが。
亜人を奴隷身分にして見下してた政策以外は、もっともノル・ファールンの考え方にちかい。
安い兵力に国軍の主力を担わせすぎてた。
これが今、崩れようとしている。
「――安い労働力に甘んじてた当該国は、本来、この平和だった時を利用して、次代に向けて農政改革を行わなければならかった筈です。しかし、低賃金で代わりにキツイ仕事を熟す底辺層の移民、流民が熱心に技術を磨いていく負のスパイラルに。また、農家たちは意見具申に耳を傾けることがなかった」
「見てきたことを言うのだな?」
女帝のは揶揄いだろう。
千里眼だと言って、賢者が他国に分身を送っていることを知っているかもしれない。
が、ここでは微笑みながら賢者の言葉を待つ。
「見てますとも、こう目の膜がからからに干からびれる気分で見ていますとも――かの国が飢饉に喘ぐのは、そうした国内の膿によるものだと思われます」
拍手。
やや控えめだけども。
「面白い考察だが、かの国の第二妃、どこの出か知っているか?」
「南方の国の出とか?」
瞼を閉じて静かにうなづき。
女帝が顔の半分を扇で隠しながら――
「あれはな、ノル・ファールン喧嘩王の孫娘だそうよ」
思わずチェストが滑り落ちかけた。