武王祭 8
翌朝、朝稽古と称して。
あたしは禊を終えた足で、神殿騎士の中身の人々と素振りしてた。
教会では、真剣の重さに匹敵するような、刃引きされてない鉄の棒を振る稽古法があるという。
考案者は、この宿屋を経営する神父だというから驚きだ。
で、その神父も朝から...
あたしの剣筋をじっと見つめてた。
「その剣をよく振れますね」
あたしが手を止めるタイミングを見計らって...
「神父は何故?」
「あなたの呼吸が読めたか、ですか?」
鼻頭を揉みながら、
「私に合わせてくれた...からですかね。紅くんから“先輩”は、一つの魔法しか使えないけども、何でも使える魔法使いよりも凄い存在だと言ってたのでね...その意味がこれで分かりました」
教会も疑ってたわけじゃない。
あたしが“炎の柱”から何処にも派遣されず、冒険者になったことが、方々に疑念を産ませてた。
やりたいように、ヤル! これの生き難さは身をもって知っている。
なるほど、ここでもか。
「重くはありませんか?」
刃のない鉄の塊である“剣”みたいな棒。
が、これの正体。
実際に振るものはもう少し重くなるだろう、か。
「いえいえ、ちっともと言うには...気が引けますが、あたしの長剣よりかは少し重い感じです」
気遣いは、あたしの専門職が魔法使いだからだろう。
「そういう事でしたら、模擬...この子と」
背中を押された娘がある。
神殿騎士の中身が一人、禊の際にナンパしたら逃げた子だ。
時にアルファちゃんという子にしておく。
「やややや、ええええ!!!! な、なななんで、せ、せせせせ拙者な~んですか~!!!!」
おやおや、古風な一人称。
ボブカットで、黒鹿毛っぽい色合いの髪をもち。
ぷにっとした丸顔の愛らしさが、乾いたあたしの心を癒してくれた。
そしてなんといっても、バターロールみたいな甘い香りがしたんで、声を掛けたんだけど。
神殿騎士の中身の子らは、みんな純真だなあ。
「はい、どうどう」
「はわわわわ」
興奮した子を手名付ける所作も見事な神父。
「セルコットさんの肩を借りちゃいましょう!!」
って、背中を押してるんだけども。
あたしはレース前の併せ馬じゃないし。
◇
神殿騎士のぽっちゃりさん、アルファちゃんの剣筋は素直だ。
これは、教会に凄腕の剣術指南役があるってことを、意味する。
それでも...うん。
あたしから見ると、これはとても...上品な剣裁きだと思う。
踏み込みが甘い。
ここで弾くのは簡単だけど、自信を失わせるのは勿体ないし...
で、受け流して間合いを詰めた。
彼女は折角、詰まった間合いを自らの足で逃げた。
あたしの跳躍ならば、彼女の懐まで入れるけど...
思わず首を振ってしまった。
これは、敵わないと、判断されたんだけど。
「ご不満のようですね?!」
神父に促され、アルファちゃんはたわわを激しく揺らしながら、沐浴場へと駆けていった。
「彼女の獲物は、槍か何かですか?」
あたしの問いには無言のまま。
神父は、型稽古用の木剣を握る。
何度か素振りをしてから...
「手合わせを」
対峙してきた。
ああ、これは本物の気迫。
正教会の武闘派か、
異端審問には荒事を押し退けるような武力がある。
教区に置かれた聖堂騎士団のような連中とか、ね。
「それ、木でしょ?」
「何か問題でも?」
肉体強化スキルの中に、獲物を強化するという派生のスキルがある。
魔法のエンチャントと同じもののようで、ちょっと違うもの。
これは、まあ技術だ。
「いえ、あたしももうひと汗流しておきたかった...とこです」
って言っちゃったわ。
あたしのバカバカバカ!!!




