北方・三王国時代 乱世 5
ヴァーサ王国を脅かした、英雄王スチール。
その末裔は、悲惨だった。
かつては諸豪族をまとめあげ、三雄に迫らんとする王国へ駆け上がってた。
が、その夢は一代で潰える。
英雄殺しの“スパタ”。
13英雄がひとり、“グラディウス”の一人息子か或いは養子か。
父のひと振りの大剣で、スチールを切り捨てたという伝説が紡がれてた――ナーロッパ神話の物語の一つとされるもので。結社としても、遠くもない記憶のひとりだ。
『そうか、アレか』
スパタの名には聞き覚えがある。
カリスマこそはないが、蔭のある青年だった記憶。
英雄王の末の息子が生き延びる。
おそらくは過酷で厳しい時代だったはずだが。
彼はたくましく、その命を燃やしたのだ。
新たな境地。
冒険者となって――腕鎧の“スチール”・デアハイム。
ゴールド・チョーカーのも称号の一つになるだろうから、母の姓を名乗って子に繋いでいく。
『ふむ、英雄の息子は英雄に返り咲くか。あるいは、血の継承か? まあ、これはこれで研究対象にはこと欠かないようだが。冒険者のひとりが兵を動かすとは思えぬし。と、なると...英雄殺しの方か? あれもカリスマは無いが変に人を魅了する力はあったな』
恐怖という別の高ぶりで、だ。
額をそっと卓から離して。
すっと指で触れてた。
周囲の人々は「やっぱり痛かったんだ」なんて心配してたけど。
賢者本人は痛みじゃなく、冴えた頭に冷たい指先を当てただけという。
『スパタは今、何を』
「うむ、未だそこにおったな、将校よ。もう一つ頼みたいのだが、英雄殺しと白の魔法使いについて、記述がないか探してきてくれんか?!」
英雄殺しのスパタは、後にも先にも闇の住人だ。
殺し屋として名を馳せ、組織も作る。
ギルドは作ったけど。
看板のないレストランのようなもので――『注文したければ、冒険者ギルドの掲示板にでも張り出しておけ! もっとも気が乗らねえってのは、それだけ本気じゃなかったってことだ。ヤられる側もヤる側も、命拾いしたんじゃねえのか』って口上が独り歩きしているようで。
面白半分だった依頼で命を失った冒険者や。
支払いでゴネたもんも晒されて。
中央大陸の北方はかなり荒んでたようだ。
英雄王を失った王国の解体とか、後継者争いは内紛にまでなって20年。
20年間紛争が続いた。
書館の将校がスクロールを運び終えた。
「これだけかね?」
スクロール2本。
他国の情報が纏められた情報将校が製作した公文書だが。
精度からして数年分だろう。
それがスクロール2本。
すくなっ!!
「えっと、はい。閲覧できるギリギリです」
客将には、だ。
そうとらえた。
「どうしたら読めるかね?」
賢者の目が真剣なので。
将校も斜めに俯きながら...
「えーとですねえ。たぶん、元帥ぃ...ど、殿、なら」
あいつか。