北方・三王国時代 乱世 3
ヴァーサ王国の内情は危険水域に突入していた。
北方の雄として三王国は、絶大な権勢を誇っている。
三国同士で比較しても同格として見られていた。
各地方の諸豪族が徒党を組めたとしても、この格が揺らぐことはないだろう。
ハイランド王国は、国名通りに標高の高い地域が支配領域で。
その背後には獣人族の生息地域と隣接する形でお互いの利するならば、共存共栄を約束していた。
一方的な理由で侵さなければという、不可侵条約めいた約束で成立している。
ヴァーサ王国の場合は低地と海岸線が支配領域で。
東には亜人族が住処としている。
人種族国家だけども、今のところ亜人族との間に目立った争いはない。
ノル・ファールン王国は海を挟んで対岸にある、最大版図持ちの多民族国家。
侵略の機会を虎視眈々と秘めている軍事国家とも形容される一面があって。
この国を焚き付かせて、利する者があれば一番最初に接触したい国だろう。
ただ、そうした場合の代償は高くつきそうだ。
“煙水晶”の賢者の知見からすると、後者の国家は尻は叩けても、手綱が握れない。
戦争は終わらせる方が難しい。
国のトップが野生の獣と大差がない場合は尚更だし。
エルフ種の絶滅――これは星の内海研究に支障をきたす。
避けなければならない。
彼の理想とする雄は、ハイランド王国の台頭。
譲れない。
◇
ヴァーサ王国の封鎖は、ノル・ファールン王国によるものだ。
ただし海賊をたきつけると、自国までに飛び火しかねないから。
そこらへんは穏便に。
いやスマートに仕掛けている。
南方の多種族と交易しているのだから、ヴァーサ国章の御用商人が求めるものを誘導すればいい。
かの地の亜人族も協力的で。
材料費の高騰が原因だとして納品を渋ったりしていた。
市場に停滞が生じると、引き攣られて値が上がっていく傾向がある。
不安や心配、それと恐怖だろうか。
麦の不足は自然の追い打ちのようなものだ。
確かに栽培している国内の農夫たちから出来高が報告されて、例年の2割落ち込みとのこと。
それでも自給自足で足る量の確保はできた。
王国から安泰って言葉が出ているんだけども。
『本音と建て前くらいは、国民も知っておるさ。国は本音を言わない...市場で囁かれたら、煽られた国民は心の底から安心すらしないだろう。何せ、現実に陸路から“羊毛”が入り難くなっている。亜人からは鉱石の取れ高が悪いとか、武具の出来にひびくと納品が渋かれている。不安の積み重ねの払拭がないのだから』
賢者の手元に書類がある。
国家機密ではないけども、口外は固く禁じられた。
深く重い溜息が吐かれた。
『陸路か、ハイランドの方針から少しズレるとるようだし、関りが無いとも断言はできぬが。この国が抱える亜人差別が引き金に?』
エルフの外見に拘った偏見が酷い。
褐色の肌を見て“ダーク”、闇の落とし子だと罵り。
透き通った白い肌(これはハイエルフの混血児に多い特徴で、病弱である)の見た目から“ホワイト”、また“ライト”と呼ぶようだ。
別に崇敬しているわけじゃなく、差別化しているだけで。
ハイランド王国の市民がエルフだと知っててバカにしているわけだ。
もっと真っ黒な肌の色は“レス”、見えない者としている。
『王国の差別は数百年にわたる。もたらざる者の妬みに、やっかみから来た感情のものだ。陛下が気にしているのは抱える感情が爆発した時の危惧。啓発の意義は理解しているし、活動の崇高さに共感が持てる。結社でなければ惚れていただろう』
ヴァーサの国力を削る。
とはいえ、ハイランドでは片方の国境を維持しながら王国は狙えない。
同盟?
賢者は壁にある周辺国図を見る。
豪族どもか...