北方・三王国時代 乱世 1
北方の雄といえば、ハイランド王国の名が挙げられる。
領有する最大版図を持つ次点の“ノル・ファールン”王国に、豊かな海岸線をもつ“ヴァーサ”王国がある。
今のところは、この三国がそれぞれに同盟を組んだり、駆け引きに興じたり。
ともに次代を考えたりしている。
煙水晶の賢者こと、ハイランド王国の宮廷魔法使いが持つ悩み。
女帝リヒャルディスが和平路線の維持派だってことだ。
エルフ種すべての頂点に立ち、かつては神格化も成し遂げた神代最後の純血統種だ。
星の内海とつながり、莫大なエネルギーに干渉し、操り、その身を兵器へと落とし込める存在。
結社はその内海に干渉する能力について求めているのだけど。
恐らくは皇族以外で。
内海に接触できるハイエルフはいないものとみている。
いや、煙水晶は実験を重ねてきたのだ。
その結論として、
ハイエルフでも大まかに2種に、分類できるとした。
皇族はエンシェント・ハイエルフ。
神代から息づく極めて細い血統であるということ。
個人でなら数千年は生きられるけども、子を成すタイミングほぼない。
性欲が全く無くなった訳じゃなく、人並みに盛んなんだけども。
大当たりの確率が、極めて低いか、狭いかで。
ド直球のストライクっぽいのでも『ボール』扱いになる。
これじゃあ、当たりが少ないってわけで。
神代の失われゆく純血統種もこの時代までというわけだ。
◇
女帝と宮廷魔法使い、ふたりだけの会合。
プライベートな内容の時だけ。
もっぱら賢者から切り出すことの多い謁見。
「――人工授精、か」
乗り気じゃない。
そりゃそうだろう。
女王の、女性としての適齢期は過ぎた。
2回の懐妊が確認されて後、流れた経験からすると期待は裏切られる。
迂闊にもほいほいと飛び乗るほど若くもないし、思慮に欠けるものでもない。
また、体外受精だってエルフが手を出してこなかった訳ではない。
それでも。
「滅びを待つ種なんて幾らでも居るだろう」
エンシェントでいえばそうだろう。
わりと若いエルフ。
混血のエルフ族(丸耳族、長耳族、垂れ耳族、尖がり族...えとせとら)は1世紀ごとに生まれて、増えている。迫害の対象になったり、肌が黒いと、目が黄色とか赤とか、とにかく色白で血の気が引いた病弱っぽいのが、エルフだと思ってる人々が多い今世代では他者と違うだけで、気味が悪いとされてしまう。
そういうエルフの保護に尽力しているのが女帝リヒャルディスなのだ。
「して、そうまでして余の機嫌を取りたいそなたは何を望むのだ? 星の内海、精霊界に興味がありそうだと分かっている上で、尚も尋ねる。余の継承を実子へと継がせるのなら、摂政かあるいはそれなりの発言権が欲しいのか」
女帝の権能だが。
賢者は埃がたたない上等なローブを叩いて。
「これは忠誠にございます、陛下。科学者としての生物に対する興味もありますが、陛下の御血筋が絶えぬよう努めるのも宮廷魔法使いとしての責務として心得ているのです」
耳障りの言い、また心地の良い言葉を選んでる。
確かに内海への干渉方法は知りたい。
実験の結果では、触れられるものが女王の血統以外に居ない。
身内でも期待値が限りなくゼロだった。
これにはカラクリがある。
と、彼は至る。
まあ、もっとも。
女王へ見返りとして――では首が飛びかねない。
そんな未来視も見える。
「左様か、ではよきに取り計らえ」
お許しは出た。




