聖女連合軍、立つ! 5
『へぶしょぉぉぉいい!!』
顔のパーツが飛ぶ勢いで、乙女神はくしゃみをした。
生唾みたいな飛沫を御使いたちが喰らったとこで。
「ここは、どこ?! えー、また、ここぉー」
あたしは天界に呼ばれてた。
◇
あたしも喰らった飛沫を、着てた麻袋みたいなワンピースで拭う。
裾が短いから、これ。
腰の下は丸見えじゃねえかな?
『誰か、わたしの噂話してるよね、ね?』
今更、噂話でくしゃみもでまい。
あなたのことを悪く言う人の方が多数派ですよ、と。
「はて? そんな事で呼び出した」
『そう、なんかセルちゃん鋭くなった?』
おやおや????
セルちゃんですと。
そんなに親しみ込めて呼ばれたことは無いんですが。
乙女神さまは何をお隠しになってるのかな。
直近でも“まな板”だったような。
『――っ、もうヤダなあ。セルちゃん相手に(肩を竦めて、両腕を広げてた)、ぼぉかあ、やましい事なんか考えたことも...(なんか妙に焦りめいた雰囲気が)行動もしないよ。ここは紳士的に...』
あんた女神じゃんか。
何が紳士だよ。
「そうですよ、セルももっと強く非難するといいのです。この腹黒、若作り女神野郎って!!」
聞き覚えのある声音。
振り返ると、背中の影から“魔王”ちゃんが現れた。
あたしの表情は分かり易かった。
「質問ですか、ま、簡単に要約すると! セルとわたしが、気付いてると思うのですが、同一の存在から分割されて危険物ではなくなるよう、仕組まれたからに他なりません」
うん。
うすうすと感じてはいた。
意識したのがいつだったかは、覚えていないけど。
あたしの中にもうひとり居る。
彼女もあたしを認識してて、護ってくれてた。
そして、その彼女は。
乙女神を見知った存在だってことも。
歴代の聖女たちも存在くらいは、現役の頃に気が付けたかもしれない。
彼女が初代の聖女だ。
「あなたが焦っているのは、どちらの状況かしら?」
魔王ちゃんの思考が流れ込んでくる。
いつもはフィルターが枷になって全く読めないのに。
ここが天界だから?
「今のセルなら理解できるからです。世界を灼いた魔女の魂を持って、エルフに転生したドジっ子さんで、わたしは魔女を封じる為につくられた聖女ですから」
つまり。
世界を支える三柱のひとつって事だ。
もっとも、今のあたしに世界を灼いて、神に仇なす力はない。
いや、乙女神は――『魂が望めば、そう出来るものなのよ』だとか。
そういうものかな。
「いや、あたしを怖がるために呼んだわけじゃないよね?」
乙女神の陰鬱なとこにちょっとイラっと来る。
『召喚した勇者が、消滅しちゃった』
早く言えよ。
いあ、半神っていう権能はどうしたよ。
そこは“魔王”ちゃんが補足して、
「神といえども万能、不死身なんてことは無く。かつて好き放題に世界に君臨し続けた者たちへ、鉄槌という生者の怒りを下した存在、忘れてないかな? ほら、魔女、魔女」
世界を灼いたって話だけど。
天界から諸ともに神々を放逐させた業火がある。
下手を打てば神も死ぬのだ。