武王祭 7
「あの間が出来たところを見ると、聞かされてる...クチか」
パンツは返してやれの一点張りで、
女剣士は再び、腰を椅子に沈みこませてた。
ウエイトレスのお姉さんが、運んできたコーヒーに目を輝かせている。
「ええ、まあ...」
一通りは、と。
つなげる雰囲気もあったけど、やめた。
剣士が背中の大剣を降ろしたからだ。
なんだ、長居するの? と思ったに違いない。
「我ら“鬼火”は再結成を所望しておる! メンバーの幾人かは、フリーな者だったので容易に集められたのだが、セルコットと回復薬のヒーラーが、な...どうも長期の仕事を抱えている様子なのだ。が、これはこれで、如何なることなのだ?」
如何なることとは、如何なる?
後輩でも、固まることもあるようだ。
ひと月前、元いたギルドに宛てられたという手紙が、教会を通してあたしの下に届いた。
あのギルド長の事だから、一度はごみ箱へ。
...捨てようとしたに違いない。
ただ、寝覚めが悪いんで...
街の教会に頼った。
街から街へ。
港町クリシュナへ行きついた時は、すでに時遅しの行き違いだったらしく。
手紙を受け取ったのは――あたしらが王都に入る頃、門前で待ってた修道士から、だ。
女剣士の汚い字で、同窓会開きますみたいなノリの呪言が書かれてた。いや、そう見えるくらいの汚い字だった。
が、残念なことにその開催日は、10日以上も前に過ぎてたわけだけども。
「そこで、だ! 今、どんな仕事についてるのだ、アレは」
ブラックは苦かったのか、
或いは熱いのかで、一口だけでカップを遠ざけてた。
彼女は手のひらを合わせて、
「セルコットが選んだ仕事だ! 面白いのだろうなあ」
こいつそんなトコあったよなあ。
外見では想像も出来ないほどの乙女で、根っからの脳筋。
最初の頃は重装甲、重武装の騎士風だったのに、すっかり...あたしに合わせちゃって。
師匠まで同じのにしちゃうんだから...
「姐さんは借金返済のための仕事なので、面白いと思っているかどうかは」
そっか、あたし未だ借金返済中なのか...
借金って怖いね。
「ま、まさか?! アレの財布には“鬼火”メンバーからも刈り取った金貨やら、銀貨が眠っているはず!!!?」
そんな泡銭、ギルド長に服と装備品以外、剥ぎ取られましたとも。
ああ、あたしの財産はこの身体とスキルだけよって、実感させられたなあ。
いい思い出じゃあないけど...
「では、この王都にあるというのは、まさか仕事ではなく...武術大会が目当てなのだな!!」
女剣士は、勝手に納得したように頷いてた。
姉弟子との対戦楽しみぃ~って、一人で盛り上がってもいる。
「そもそも、姐さんはエントリーしてませんよ?」
後輩が何か鋭く察したように、オーバーアクション交えて否定した。
彼女の目から見た、あたしは火炎球しか使えない魔法使いでしかない。
そうだなあ。
職業は明かしているだけで、ひとつ――斥候だけだし。
“鬼火”を知らない後輩たちは、あたしが後衛にいるタイプだと...思いこんでるんだろうなあ。
「お前は本当にアレの後輩なのか?!」
って驚かれてるけど...
女剣士から優勝賞金を聞き出すと、
その否定な姿勢に揺らぎが生じる。
金貨1万枚。
2位以下でも、3千枚はくだらないという賞金たち。
5位以内であれば1千枚は堅い。
しかも、幸運値の反作用が発動するのは、施された場合かドロップアイテムのガチャモードによるものとされる。
腕自慢での獲得賞金は、運判定が然程働かない点にある為、ノーカウントだ。
その他で金を稼ぐとしたら、報酬として要求するくらいだろう。
《あの人なら...》
って、後輩の脳裏にも、何かが過ったっぽい。




