邪神と勇者と... 2
世界に緊張が走っている。
バスラの街に滞在する騎士団も、世界帝国に拠を移した“さいしょの人々”も、そして邪神の残滓も。
それぞれが、それぞれに感知している。
聖なるものたちの敵意が、彼らに向けられているということを。
もっとも、派手に暴れまわってくれた御蔭で。
乙女神からの熱い視線を一心に集めているのは、邪神の残滓だが。
啼かずば鳥も撃たれまい。
◇
勇者たちはじっと耐え忍んできた。
捕らえられた初日こそは、不意も突かれたし、困惑もしていた。
徐々に冷めていって冷静になった頃合いも。
何故、自分たちが一か所に集められたかの理由も、不思議だったので。
ショタが一計を献じた。
ほかの勇者たちも納得はしてくれて。
力が戻っても、か弱いフリをしようと。
そうすれば得意気になって話してくれるかもしれない。
勇者をひとつに集めた愚かな行動に。
「待遇の改善を訴えない不思議な奴らだが、なんとも不憫にも思えてきたよ」
導師たちが噂するようになった。
少しだけ進展した雰囲気。
「ライ麦パンを人数分持っていったら、ひとつのパンを千切って6人で分けて食べてるんだぜ? 改善どころか彼らの持つ常識が、俺たちとはかけ離れてるんじゃないかって...なんか、俺さ、涙が止まらくなってきたんだよ」
「そりゃ、ブタ草の花粉じゃないんか?」
花粉症。
アレルギーによる近代病である。
免疫力の過剰によって生じるものとされる。
「花粉症かよ~」
港町郊外の遺跡に籠ってから6日余り。
隠遁している理由は、あたしたちとのニアミスを防ぐことだけど。
邪神が最後に“ここかも”しれないってオーダーした遺跡だからだ。
今、最深部に調査隊を送っているが。
「調査隊も2陣送ったけど、帰ってこねえって」
不安そうな話もし始めた。
そこで――
「な、あ?! ここの巣穴は何が居るんだ」
てな世間話を、優男が始める。
勇者の中でイケメンと言えば、彼が脳裏を過る。
たぶん好感度を爆上げする固有スキルでもあるんだろう。
「巣穴じゃねえよ!! 神々が地上に楽園を顕現してた時の人々の住まい後だ。多くの神々には眷属と呼ばれる特別なヒューマン族があって、この遺跡は楽園から追放された亜人たちが神殿として使ってたって、名残りの遺跡なんだよ」
そこまで話してしまう信者と。
肩を小突いて「言いすぎだ口を慎め!!!」って怒る信者が。
優男のスキルに掛かり難いタイプの者もあるのだろう。
これは限定範囲の強力なチャームだ。
「――じゃ、じゃあさ。俺たち勇者はなんで、ここに?」
小突いて止めてた信者にもチャームが掛かり。
「邪神の復活と言ったら、生贄だよ」