邪神と勇者と... 1
邪神とソレに憑依された青年と、導師たちは港町“ガンガガ・ンガナール”にある。
対岸に見えるのは中央大陸の白い影だが。
近くに見えても、船で4日ほど先の景色。
つまり、アレは蜃気楼の類だ。
勇者たちの扱いは更にぞんざいとなって。
もう人権も何もあったもんじゃない。
とりあえず鉄製の檻の中に放り込まれた状態で――「確かによ、放り込んだりしてやったがよ。自分ら待遇の改善とか、訴えるか。或いは自分たちで体勢くらい、変えてみようとか思わねえのかよ? 見てるこっちが心苦しくて宜しくねえ」
なんて邪神崇拝者から同情される。
勇者たちは山となって重なり、一番下にジジイ。
直ぐ上がデブで、ハゲとヤサが続いてショタとビッチが重なってた。
うーん。
今はショタとビッチがセット扱いなのか。
◇
邪神に憑依された青年は冷静だが。
心中穏やかではないのが邪神だ。
彼がそのものではなく、残滓である自覚があるようで。
魔の気配が濯がれたという感覚が、焦りを生んでいた。
『このままでは』
天界に呼ばれたあたしのように。
青年は自分の内側へ、邪神の本性と語り合っているとこ。
「勇者を殺せる獲物があれば、迫る敵に対応しようがあるんだが。邪神は何か知らないのか」
知ってればイの一番に。
否、彼の性格したら、勝ち誇ったように他人を顎で扱き使うのだろう。
こうやって青年の心の隅で震えるようなタマでもない。
『我の完全復活を、だな』
とは言っても曖昧な指示が出るばかりで。
そもそも論だ。
こうやって、邪神に憑依されたのも偶然でしかない。
たまたま、正教会・“白”の枢機卿から。
島大陸に遺物の痕跡があると告げられて、神代のものであれば教会が検分しない訳にいかないと。
そう、神秘科に打診がきて調査に出向いたのだ。
「じゃあさ、その不確かな... 勘のような位置当てクイズめいた導きをなんとかしてくれよ。今、あんたは自身で討伐されそうになってるんだぜ? しかも、えっと女神の力を削ぐために...だっけか? 各地から勇者を攫って、か?」
勇者を誘拐するために用意された枷は効果的だった。
邪神の墓所の中にあった遺物だが。
乙女神の加護がすっかり消えてしまった。
しかし、彼ら本来のステータスまでには及ばなかったとみれる。
中途半端だ。
仮に邪神そものを封印していた枷だとしても。
彼が弱体化されてたとはとても思えない遺物。
『何が言いたい』
「邪神さまが言ったんだぜ、各パーツを集めれば。己の中に眠る神のぱぅわ~で以て、ひと柱のみの世界に再び天界の楽園を再現してやろう、と」
その邪神が乙女神以前の主神であれば、だ。
青年もなんとなくだが、勘付いている。
揺れる靄だけの邪悪なソレが。
口先だけの低俗霊めいたものだってことくらい。
ただ憑依されているので、人よりも高次元の存在なのだろうってのは想像がつく。
『おおお、儂の記憶よ~ 次はどこの街にぃー!!』