武王祭 6
まあ、前からそんなこともありました。
同期で組んだパーティはいくつかあるけど。
たぶん、長持ちしたのは、この女剣士を含む――パーティ名:鬼火。
くらいだろう。
構成メンバーは、戦士系2名・狩人2名・魔法使いと聖職者の、計6名。
普通は4ないし5人だけど。
あたしらのは寄せ集めだった。
もっとぶっちゃけると、生き残りだけで結成された――とてつもなく“運”のいいやつらの集団――っていう忌名があった。
運が良い?
パーティのメンバーが、自分を残して全滅しているのに?
そんなの、めちゃくちゃ最悪じゃないか。
だって、さ。
仲良くなった頃、唐突に別れが来るんだよ。
目の前で肉片に成る者。
魔法で塵に還る者や、死者から呪いを受けて...魂が穢れてしまう者たち。
そうなったら、安らぎどころか蘇生も出来ない。
で、メンバーの手によって葬られる。
葬るのは、最後に生き残った者の務めだ。
是の何処が...
何処が、運が良いって言うんだ!!
◇
「おっと、これは...純真無垢なお付き合いでしたか」
後輩は、バツが悪くなった。
鼻血流してる女剣士の姿も新鮮だけど、まあ、あれよ...。
後輩にも話はしておいた。
あたしの同期が、他の冒険者たちと比較して、異様に数が少ないのか...とか。
異様に強いのか...とか。
「姐さんはわりと不死身ですよ」
って言うしか出来ない雰囲気だった。
修道女が下世話な話を表立ってするものじゃあないし。
女剣士が腰を落ち着かせているのは、マーケットの中にある喫茶店のひとつ。
彼女は店雰囲気だけで、選んでた。
「分かってるが、俺たちの同期には敬意を払え、後輩!!」
差し出されてる腕。
しばらく放置してたら、
「パンツを返してやれ」
旧エルフ語で語り掛けてきた。
見れば、剣士の彼女も耳は丸いが、エルフっぽい雰囲気がある。
彼女の手を指先だけ摘まみ、
「姐さまの匂い嗅ぎます?」
◆
コンバートル王国には元から、王族と国家の行く末を占う者たちがあった。
女神正教会を国教とすると、祈祷師の存在が疎まれるようになる。
祈祷師と王族の間は、それまで蜜月の時を過ごしてきた。
中には小煩く、政治に関わろうとする導師も少なくはなかった。
が、長い歴史の中では些末なことだった。
爵位が与えられた頃からか、或いは王の弟とする者が入ってからか。
いや、祈祷師さまと崇拝していた王都の市民らが、信仰の対象を変えた時からだ。
館主人が若々しく見える時が確かにある。
90以上の老体には見えない時がある――朝日を背負うときと、陽を仰ぎ見る正午の頃だ。
そうしている時だけ、王にも見えた。
一族の子供たちも、この翁に頼りすぎるきらいがある。
ま、他人事なのでどうでも、いいのだけど。
「武術大会時が決行の時となる」
館主人が告げてきた。
夜ともなると、少し翳ってみえる。
翁の生命力も...
「そこでもう一つ伺いたい」
ランタンの光に目を細める。
青年は、紅茶に舌鼓を打ち、少女執事もリズミカルに揺れてる。
「この薬に生命力への影響があるか否かって話か?」
答えるのは和装の男。
扇を開いて、顔の半分を隠している。
「ご明察だ! 使えば己の特徴に近しい者に、変身できる。魔法の様に、自分以外の誰かの認識を上書きするものじゃあないから、アンチマジックの影響を受けない。ただし、こいつは肉体改造にも等しいからな...」
なるほどって声が漏れた。
やっぱり翁が、推測してたものらしい。
「では、変身できる者も限られるな」
そういうこと。
性別の変化も、外見上の変化まででしか変容しない。
中身、内臓の器官が変化することは無い。
ごついおっさんが、ごついおばさんに成る程度だ。
「ふっ...なら、儂には1回で十分じゃな」




