ソレは、ハトに聞いてくれ 3
秘密結社との戦いは、半世紀ほどでしかないけど。
魔界と騎士団との間で繰り広げられている、奇妙で複雑な戦いは数世代にわたる。
しかも魔界サイドにしてみれば、一方的に支払わされた対価なのだ。
転移門から多くの同胞を世界に送り出し。
それぞれの世界で、騎士団と戦った。
未だに袖にされてるような感覚だが。
どの時代でも、結社との戦いでは負けていないと、自負する。
多くの犠牲の上で成り立つ勝利なのだけども。
◇
森が燃えている。
多くの獣が逃げる中で、子犬ほどのオオカミが濃い茂みの中で震えていた。
《蛇目》のアイヴァーが気が付かなかったならば、彼の命はなかったかもしれない。
「こいつは、口汚いババアんとこの?!」
オオカミに変じて震えてた。
抱えあげるとより小さく感じ、腕の中で暖かさが薄らいでいる。
「今、ポーションを」
火を熾して、小枝をくべる。
個人のみの天幕をくみ上げて、少年に与えた。
粥も作ってみたけども、治癒水剤くらいしか口にしなかった。
「話したくなったら聞く」
牧場の辺りが燃えていると思ったから、奔った。
飼ってたハトが逃げているのも見ていたし。
警告文を括りつけてあったのも。
警告に従うのであれば、少年を見捨てなくては成らなかったが。
すっくと、アイヴァーさんは立つ。
焚火に照らされた背は大きく見えて、安心感がある。
「――場所を変えよう、子供に見せていいもんじゃねえだろ?」
焚火を回り込んで。
茂みの奥に消えていく。
◇
月明かりにぼんやり浮かんだ野原へ。
アイヴァーが原の中心に立ち終えるまで、陽炎のような影が待っていた。
「数は、っちぃ... 掴みにくいなあ」
奇襲されてたら厄介だったけど。
逆に正面切ってというのもやり難い。
草を食む音が手掛かりになると思ったんだけど、生半可じゃなく。
結果、アイヴァーさんは殴られ、蹴られて、弾かれてた。
飛び出したゴルゴーン族のお姉さんたちにだ。
ごろん、ごろんって天地を交互に逆転させながら転がって。
スイカ並みのおっぱいを後頭部に感じたところで、
「大事ないか、オオカミ?!」
てな手合いで大柄な蛇に助けられたところ。
「お、おう」
気恥ずかしさと、首にまでかかる心地い圧。
おお~ぽよん、ぼよんする。
「大事ないなら我から、退かれよ」
おっぱい揉まれるより恥ずかしいことはない。
いくら痴女みたいに紐のような帯で隠してるっても、そんなつもりじゃないし。
今は発情期でもない。
犬は知らんけど。
結社の刺客とやりあっているのは、ゴルゴーン族の戦士。
大剣とナイフの大立ち回りのようで。
つけ入る隙もない。
「無理しなくていい。そちらは小さき命を、」
大柄な蛇女の言葉を遮るように、
「斥候が得意だが。これでもオオカミだからな」
好きにしろと言われるつもりだったんだが。
案外お節介だったようで。
「子犬の世話に専念しろ! お前がヤれることはそっちだと思うのだがな」




