ソレは、ハトに聞いてくれ 2
こうして、立場の判然としなかったマディヤ一行。
慢性的金欠病に陥って、かつての知己。
オオカミたちに助けを求めて――あっさり“紫水晶”を裏切った。
まあ、このあたりの予測は結社でも想定内だ。
地下墓地を改装した集合地へ幹部が集まるなり、
『ほら、初期メンバーが声を掛けた亜人の娘。みごとに裏切ってくれたじゃないか? だぁから手綱を握れって言ったんだけど...“白”の枢機卿殿はちっとも、耳を貸さなかったよね』
手下だったのにって言葉が、言い訳を言わんとする老女の言葉を遮った。
子供っぽい声色だけど対面にあるのは魔法使いだ。
しかも、実力は世界評議会の賢人にも匹敵する“変態”として。
「いえ。むしろ、よく50年も大人しかった、ですよ」
しわ枯れた声。
意図的に魔法で声色を変えている様子で。
見た目もわざと老女然と――初期メンバーには、こういう腹芸もできる者が多くあった。
『そうだね、50年。ああ、確かに50年だね』
声を掛けてからだ。
見た目は2、3替えはしたけど。
少女時代から、少し成長して見せた。
後に不老か不死の類だと知って、研究対象とか色々接触方法を試算した。
ゴルゴーン族が敷いたセキュリティ突破に、難儀したので結果、放置していたわけだけども。
「魔術師さまを真似てイキっているんでしょうけど。耳障りな童のような声、もう少しどうにかなりません? “煙水晶”の賢者さま」
形は変えられる。
大衆のすべてに夢を見せることが出来るし。
対面の個人を対象に別の像だって見せることは容易だ。
それが魔法っていう技術。
『俺サマは、これが気に入ってるんだ。好きにさせろ!』
“煙水晶”は中央大陸の北方担当。
“紫水晶”が島大陸担当。
“黄水晶”は北極海担当。
“紅水晶”には南極海へ。
“黒水晶”は中央大陸の中央地域担当。
◇
“黒水晶”の長は不在だけど。
この場での仕切り屋は勿論、“煙水晶”の賢者。
表向きの役職は、ハイエルフが治める“ハイランド”王国宮廷魔法使い。
神代から生き残り続けた旧い血族の旧い王国だが。
中央大陸の北方こそ、
世界の中心ともいえる文化の頂点。
ハイエルフ女帝リヒャルディスが統治している時代の末といったところか。
ま、これはまた別の話なので割愛。
『“黒水晶”に命令されるまで、まだ、放逐させたままでいる気か? “白”』
明らかに敵対行動に出たわけなのだから。
路銀を出してやる意味も、支援してやる意味もない。
そういう話だけど。
老女は肩を竦めて、
「お小遣いは断つけど、そのままよ。“黒水晶”は一度、組織の掃除がしたいんだって... なら、私が教会の力で潰してしまうよりも。いっそあの子らの手で解体してくれた方が、そうねやる気になるでしょ? 双方ともに達成できた...でしたっけ」
“紫水晶”は仕切り直しが出来る。
その人材は確保済みで、そっくり入れ替えるとなると。
今まで支えてきた者たちから反感を買う。
「うっわ、えげつない」
思わず声を挙げたのは、ふたりに怯えてた“黄水晶”の冒険者っぽいの。
嫌々参加してるひとり。
帰りたがってるひとりでもあって。
「じゃ、オレ。要らないと思うんで... 帰るね」
“紅水晶”の長は、オレっ娘の正真正銘な少女。
ちなみに絶賛迫害されてる“ダークエルフ”族の娘だ。