ソレは、ハトに聞いてくれ 1
「商談は纏まったか?!」
部屋の外にて待機してたアグラが入室。
実際、彼ら三人。
置かれている経済状況は最悪だった――そもそも、豪奢な馬車がよくない。それを護衛する冒険者のカラー・チョークも、コスト≒パフォーマンスからして財布の紐が緩すぎた。結果的に慢性的な金欠状態になるところ、まさに“謎の資金供給源”によって騙し、騙しで乗り越えてきたのだ。
「まてまて、それが分かってたんならグレードを落とせよ? 貴族でもないのに無い袖は振れぬが一般的な常識だろ!!?」
シグルドさんのごもっとな指摘に。
アグラが反論。
かれが口を挟むとは思えなかった、けど。
そこには彼なりの切実があった。
◇
つまり。
ゴルゴン族と妹柱には“金銭感覚”がひとつ、ゼロ、桁が違うところにある。
どこかの王妃さまが『パンが無ければケーキを食べればいいじゃない?』なんてのと似ていて、基軸通貨による一般的、標準的な収入力を知らないというのが問題だった。
じゃあ、教えればいい。
しかし、ここで難敵であるゴルゴン族が立ち塞がる。
あ、シグルドさんが顔を両手で覆った。
「相棒、俺の気持ちを察したか?」
アグラも同じことで挫折した。
彼の給料だって未払いだけど、人柄に惚れたので護衛剣士として同行していたし。
彼自身の貯蓄を切り崩して、ここまで懸命に尽くしてきた。
が、もう限界である。
「しかし、その“謎の資金供給源”はどうなったんだ???」
ナシムの涙を誘う演技がはじまる。
泣き崩れながら、風景が瓦礫にしか見えない窓辺まで這い寄って――
「賢者ブライ・ボルとその一味をメガ・ラニアにて屠った直後から、滞りまして。一体どうなったんですかね?」
それをこっちが知りたいんだけどね。
さて、時系列的には《蛇目》アイヴァーさんが、マディヤ一行と公国の重要人物の会合を知った。
監視してたのはマディヤではなく。
公国の国防大臣で、焚きつけたという怪しい妖術師って話だ。
さて。
その頃の結社は兵力と扇動者のほぼすべてを失った筈だが。
「まてよ?! “金脈”も潰したな」
シグルドさんが湧き出した、炎を背にした大老を思い出した。
暗殺者が真面目に正面からぶつかって、見事に撃破してみせたけども、なんとなく禍根めいたものが残った苦いシーンのひとつ。捨て台詞までは覚えていないけども、彼らは“財力”という暴力で島大陸という“小さな世界”を牛耳ろうとしてた。
「あ、それ。中央大陸を中心に、大真面目ですけど思考実験の一環で行われた机上演習です」
それを早く言え。
聞いた後と、聞かなかったでは隔たりが出来る。
思考実験。
いや、もうその段階は終えている――机上演習も何パターンで繰り返しリハーサルされた筈だ。
用意周到な連中だってことは、一見、杜撰に見えた計画と阻止しようとした行動の合間に、彼らは望みどおりの結果を得ていた。
例えば、コンバートル王国の騒動。
或いは、ラグナル聖国の陶片選挙。
そして、自由都市の邪神騒動とか。
燕尾服の少女ナシムからは『考えすぎ』って言葉が出た。
いや、妹柱は乙女神が世界システムの危機を察知したから、勇者召喚に踏み切ったといった。
ならば邪神騒動だって――各地の異変に対処する筈だった勇者を一か所に集めるための――いや、憶測に推測を重ねるのは良くない。
「路銀の手配はこちらで行おう。とりあえず、隠れ郷までの道のりだが」
「馬車がいい!!」
燕尾服の少女は、従者なんだけど?