《三本爪》の勧誘 2
「で、俺を。いや、オオカミを呼んだ理由は?」
ナシムの背後に空間の歪みの後で、マディヤが現れる。
トイレに行ったら“紙”が無かったらしく、従者の下へ飛んできたという。
羞恥心が無いのは、神なりのジョークか何かだろうか。
「――す、すいません。なんかシリアスなシーンでしたのに、急にトーンが下がってしまって」
「いや、俺も...その、見ちゃったんで、ま、ラッキーでした」
ごめんなさいの押し付け合い。
埒も開かないので、妹柱を交えた会合へと変わる。
◇
呼び出した理由は簡単だ。
内側から引っかきまわすにも限界を感じたからだ。
いや、すでに秘密結社はその実態をどこかに移管してしまったらしく。
折角、潜入してまで有能さをアピールしていたのに。
宗主とする人物も。
組織上の駒に過ぎないことまでは突き止めた。
「じゃ、じゃあ。劣化とはいえひとつは簡単に潰せそうだが」
ハトを使って暗殺の仕事でひとりづつ排除してきたけど。
蛇の頭はいつでも生え変わるのが、こう、何十年も繰り返してきた。
「つまり、結社の重要人物を潰さない限り...」
みなまで言わなくてもいい。
ナシムは激しく頷いて。
「四つの組織には必ず宗主がいます。人々を鼓舞する役目の者の陰に潜み、圧倒的な統率力で群れを好きな方へ向かせることが出来るリーダーが。今のところ、冒険者ギルドの運営に携わる“世界評議会”という賢人の集まりなのではとも考えましたが」
「何か不都合があった?」
新聞に目を通す習慣がシグルドさんには無い。
そもそもその発行者が、冒険者ギルドなので。
悪の組織なんて認定されてた、組織の広報誌なんて読むわけがない。
たぶん読まないだろう。
「いえ、評議会メンバーの訃報と賢人のメンバーが明らかになりまして。我々で把握してた者はあくまでも、ギルドに関係してた部外者とわかりまして」
紛らわしい。
いあ、そう分かったから前進できて。
そして彼らも詰んだところだ。
故にバラバラで動くよりも、皆で協力した方がいいと思ったのだ。
「単刀直入に尋ねちゃうけど」
「はい! なんでも」
シグルドさんのひと指しゆびがマディヤに向けられ。
「彼女は聞いてるだけかな?」
ナシムが当然のように頷き。
あかべこみたいに上下に首を振ってた。
「じゃ、」
「目を離すと、野獣が悪戯しようとするんで。女神さまを護ってなきゃいけないんです!!」
燕尾服の少女はそう言ったけど。
シグルドさんの目には、彼女の方が危険に思えた。
だって、女神さまにべったり引っ付いて頬ずりしてる訳で。
「なあ、アグラが旦那と呼ぶお姉さんよ。あんたの知識の中にアメジストの宗主ってのは、まあ、表向きの“顔”の方でいいから。何者かは分からんかな?」
ナシムの耳がぴくりと動きはしたけど。
スルーした。
応えるとは思ってもみなかったようだが。