《蛇目》の帰還 2
聖都郊外の旧商会ギルドの廃屋群。
昔は、ここで積み荷のチェックが行われて、聖都内に運び込まれていた。
“金脈”にギルドが掌握される前の物らしいけども。
使われなくなった後は、ゴロツキどもの溜まり場となってたようだ。
アイヴァーさんの身に覚えのない手入れによって、郎党どもは一掃されて。
治安が回復。
かつて、“金脈”の素性が盗賊だった名残か。
手入れで壊滅した彼らの腕には、申し合わせたようなタトゥーが彫られてたという。
もちろん“金脈”の亡骸に掘られていたものと同じものである。
「出来すぎでしょう?!」
衛兵詰め所でのアイヴァーさんの談。
血を水で洗い流しても痕跡は残る。
獲物の短剣だって、武器と武器がかち合えば刃毀れもするし、ガタつきもする。
昨日今日のことだから。
腰に提げてる一品ものが、何処にでもある安物であるならば。
似せて提げているってことは、まあ、あるかもしれないけど。
砥ぎ士に出して調整して貰い、武器屋へ持っていって柄とのガタツキを直してもらう。
流石に一朝一夕では。
「で、ウトウィック氏は?」
恩義のある衛兵も少なくはない。
何かしらで心配はしてたが――。
「そのゴロツキどもが、俺のフリをした誰かに一掃された御蔭で。呪病ともいえる痕跡が消えました」
ウトウィック氏ひとりならば、即日にも解呪は出来た。
それだと商会の誰かに再び災いが降りかかることになる。
十中八九、仕返しの仕返しめいた。
負の連鎖だろう。
「そうかい、そうかい。なら、誰かに感謝だ」
「感謝、そうですね」
腹の下の方がぎゅっと苦しくなる。
感謝されるなら自分で成し遂げたかったって欲が無いことも無い。
「次は何処へ?」
依頼を求めて渡り歩いてるように思われてる。
実際に、ハトが来て“帰還する”か“次に行く”かで悩まされた。
が。
「いえ、一度、戻る予定です」
シグルドの方も気がかりだ。
あれは運が悪い。
自分ほどでもないけど、運が悪い方だ。
まあ、あたしと出会うくらいには。
◆
ハト小屋からの依頼文。
協力者の勧誘クエストだが。
両者ともに初顔合わせだけど、それぞれが勘と匂いで嗅ぎ分けた相手。
「オオカミを呼んだが、よりにもよって猟犬が来やがったか!!!」
アグラの手が柄に掛かっている。
その背に隠れるような形で配置された、マディヤ・ラジコート。
反転した肉体を持て余しているトコで。
マディヤの肉遊びに、鼻血を流して瀕死のナシムがあった。
「お、ちょ...だ、旦那! ナシムが死にそう」
ちょっと目を離すとコレだ。
シグルドに静止を促して、燕尾服の少女にポーションが与えられた。
「お前たちも難儀だな」
「同情は要らねえが、先ずはポーションをくれ!」