《蛇目》の帰還 1
ウイグスリー商会に向けた足は重い。
解決と言えば、解決かもしれないけど。
結果から考慮しても、彼らの助力嘆願に応えることが出来なかった。
空間転移でいつでも、こちら側へ踏み入れられる技術が結社にある。
彼らが崇拝する騎士団の力。
完全な模倣では無いにしても“ある”と仮定して動けばよかった。
と、反省もしているし。
考えないようにしてた己の浅はかさに憤慨してた。
だから、聖都の外に一歩も出ていない足の向けた先が重い。
《糞、糞が!!》
◆
ナーシリーヤ藩国の第二都市“バスラ”。
街一番の陽気で愉快な酒場から、左の袖を真っ黒にさせた男が。
青冷めた表情と共に猫背で転がり出た。
扉の前で待ってた従者のぎょっとした貌が滑稽だ。
肩で呼吸しつつ、男は小馬鹿にしたように嗤った。
「如何しました?!」
「大丈夫、だい...いや、大丈夫じゃないな。魔力切れ、マジ、オドがすっからかん。アーティファクトのマナもゼロ。何も残ってない、とんだ間抜けじゃないか」
従者の手を借りて馬車まで。
よじ登って、這うように滑り込んで、床に沈む。
相席の騎士に踏まれて――「アーサー卿? それ、ボクに失礼じゃない」
「おや、未だそんな元気がありましたか。魔術師卿?」
あるよって、手で払いのけ。
ゆっくりとシートへ掛け直す。
スプリングの効いた最先端の馬車でも、道が悪いとガタガタ揺れるもので。
舌を噛まないよう、無口で通す。
この間が致命的に問題だ。
野郎ふたり、相乗りのバツの悪さ。
「花が欲しいものだ」
「同感です」
ふたりは同時に舌を噛んでいた。
◇
騎士と魔術師は街の郊外にある屋敷へ。
「敵に塩を送るってどんな気分でした?」
扉を開けた直後に吹き抜けのホールがある。
中央奥に両脇へと上がる階段があって、1階と2階の間に踊り場があった。
元々貴族が所有してた外遊目的の屋敷だったので。
随所に無駄なスペースが多い。
「ガヘリス卿が屋内とは珍しい。まあ、いいでしょう... 最高の気分ですよ、もう本当に最高です。彼らが、大いに勘違いしてくれた事にも感謝ですけど。四ある結社がそれぞれに騎士団を裏切っているとが分かりました」
世界に散っている結社には高潔かつ崇高な目的と、行動力を与えた。
神代の技術力だ。
精緻な人体図とか、強力な治癒術式など。
圧政に苦しみ、貧困からの救いを求める人々の救済――果てにあるは、完全なる世界平和。
その方法が究極の階級社会だとしても、騎士団は口を挟むつもりはなかった。
「裏切り」
「乙女神の干渉がそれを物語ってました、よ」
勇者の召喚と聖女の降臨だ。
アイヴァーさんらにもそれとなく伝えようとしたら、飼い犬たちが手を噛んできた。
まあ、そんなところらしい。