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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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《蛇目》が奔る 2

 卓上を挟むふたりの男。

 ひとりは呂律の回らない酔っ払いで。

 壁の沁みに向かって話してた。


 もうひとりは《蛇目》のアイヴァーというオオカミである。

 魔界から秘密結社排除のために()を渡った者だ。



 向かい合っても、酔っ払いの視線が交わらないのも不思議なものがある。

 魔法の類で()()()()()()()()()()って呪いでもあるのかと。

 そう疑ってしまう感じがするのだが。

『1杯、足らないな?』

 今まで、気配と視線が無かった空間から急に、寒気が感じられた。

 酔っ払いが“旦那”と呼び掛けてた沁みの、人。

「あ、え?!」

 アイヴァーさんほどでも、急に席から立ち上がってしまった。

 で、存在を知覚した相手に目が向く。

 確かに壁に寄りかかった男があった。

「いあ、す、済まない。今、蜂蜜酒を...」


『こちらも驚かせてしまった、か。酒はこちらで用意しよう』

 カウンターの主人に掌のジェスチャーひとつで呼びつけて、ジョッキが卓上に並んだ。

 肴は、腸詰肉と雑な煮物が置かれてた。

 いつの間にとは感じたけど。

 主人の様子が違うのが違和感だ――「旦那、この1杯は?」

『ああ、今日も酒が飲めることへの感謝で、だな。神に捧げるものさ...今日は懐が温かい、今しがた知り合った知己の者にも、飯を奢りたいからな。もっと名物を持ってきてくれ、じゃんじゃんとな!!』

 なんて言われたら、酒場の主人も腕が鳴る。

 まあ、これで忙しくなった主人は厨房から出られなくなるから。

 人払いは完了である。

『さて、我が知己となった友よ? ひとり語りの壁の沁みに()()()()()、キミは何をしようとしてたのかな?』

 《蛇目》アイヴァーさんは斥候のプロであると自負している。

 その彼が今、キツネに化かされたような、呆気に囚われたような顔になって。

 いささか事情が呑み込めていない。


「あ、えっと」

 壁の沁み。

 どこか声が震える、いやくぐもった音が重なってゆっくりと聞こえる。

 そんな声音の男から壁の沁みと聞こえた。

 酔っ払いの男が据わってた席は、見る限り空席で――その奥に人影のような沁みがあった。

 目を何度も擦って自覚した。

「い、あ、お、俺も壁に?」

 男は頷き、苦笑された。


 まだ、理解に苦しむ。

 どんなに魔術、魔法に長けていても。

 その場で180度、世界が反転したような体験をしたら困惑する。

 まるで鏡の向こう側へいったような雰囲気だ。

『吐くなよ、飲みすぎだとしても、な。修道士さん』

 当たりは柔らかそうな雰囲気がある。

 恐らくは腰も軽いだろうし、財布の方は羽振りが良さそうな雰囲気があって。

 見た目は派手さが無いけど。

 商人にも見えない。

『怪しくはないだろ? そうジロジロと。何を見てるんだい』

 勘のいい嗅覚も持つ。

 これは手ごわい相手だ。

 アイヴァーさん自身の警鐘が聞こえた。

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