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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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武王祭 5

「で、紅のぉ。ツラ、貸してくんねえか?」

 あたしの醜態に堪能し終えた“紅の修道女”は、ふやけたツラで。

 路地から路地へと流れてた。

 お着替えショーが終わったあたしの方は、店のおばちゃんがタクシーよろしく馬車を呼んでくれて、その足で宿屋に送って貰えたんだけど。

 後輩とかトッド君の事は、改めて宿屋の方で知ることになる。

 この状況で、今、一番ヤバかったのは後輩の方だった。


 なんで一緒に居てヤらなかったんだろうって。

 あ!

 そうか、送迎馬車で送られたんだった。



「当方の名を知っているという事は、お知り合いさんですか?!」

 身に覚えはない。

 後輩の記憶力は悪い方じゃないけど、抜群という訳でもない。

 まあ、フツウ?

 その交流範囲でも...

 目の前の女剣士に見覚えはない。


 当然、声を掛けられてからずっと“?”が浮いてた。

 こんな怖い人、知り合いだっけ、と。

「ああ、ワリィな...俺も声かけるのは初めてだわ」

 知り合いじゃなかった。

 これ、セーフかな。

「何がセーフだと思ってる?」

 肩から提げてる大剣は片刃。

 長さより形状に特徴がありそうな、仕込みか、からくりの類。

 で、腰のベルトから提げられた方が厄介だと認識してる。

 し、見えにくいけどポンチョ・コートの下にある肩ひもの短剣も――エグイと感じた。

「剣の心得みたいのは、あるんだな」

 雑な所作にみえて、冷静。

 荒っぽく動いてるのに、洗練さを感じる。

 これは違和感。

「俺はセルコットちゃんの同期。首の...チョーカーは違うが、あの子の実力は“プラチナ”級だ!」

 って、彼女はポンチョ・コートの襟元を見せる。

 白金が使われてる部位は少なく、殆どは黒い皮革部分のベルトだけ。

 首輪のベルト部分だって、金貨数十枚分の価値がある“灰大山羊ブラックゴート”の皮が使われてた。

「ほう、これを見たのが初めてって感じの表情かおだな。...っベルト部分は」


「“灰大山羊ブラックゴート”の特に柔らかい部分に丁寧な細工を施し、使用者全員に合わせてフルオーダーという手の入れよう。しかも、この材料となる大山羊は、禁漁時期にのみ専属、専門の狩猟隊が入ってと...ギルド内でも一番、金のかかっていると」

 感心したように微笑み。

「よく知ってるな...俺は、その狩猟部隊に在籍してる。セルコットちゃんが、このチョークを身に着けるのをずっと待ってたんだが...なあ、紅。お前が邪魔してたんじゃあ、無いよな?」


「知り合いでしたっけ?」

 で振出しに戻る感覚。

「いや、初めまして......だと、思う」

 会話が途切れた瞬間に、

 卓上の上に水が置かれた。

 メイドさんの涙目に、

「お嬢さん、怖がらなくてもいい。俺は、ブラックコーヒーを」

 勝手に注文して、彼女を席から遠ざけてた。

「同性への対処が上手いですね」


「そりゃ、冒険者だからね。この仕事、人見知りしてちゃあ依頼も熟せんだろ?」

 ごもっとも。

 まあ、あたしの仕事ときたら、ギルド長からの盗賊狩りだったから。

 協会との長期契約は新鮮そのものだ。

 何より、人を殺さなくていい。

「あ、勘繰るなよ! セルコットちゃんには指どころか、爪の先すらも浮世なんか流しちゃあいないぜ! 俺とあのこは親友だ!!!」

 後輩の首に蕁麻疹が浮き上がる。

 生理的にダメとも告げてた。

「ちょ、おま...」


「先輩、いや...姐さまが可愛くて、愛くるしくて、無防備で、美味しそうなのは()宿()()()にいた時から分かってます。そんで、添い寝したらすっごい甘えてくることや、すっごい甘い匂いがすることも! 当方の指先を舐める癖も!!」

 卓上にあったコップが床に落ちる。

 女剣士が卓の端を掴んで、前屈みになってた――ポタリ、ポタリと赤い滴が卓を濡らす。

「は、破廉恥な!!」

 彼女には“あたし耐性”がなかった。

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