アイヴァーのお使いクエスト 2
数か月前も、ウイグスリー商会は聖都における大商会のひとつに数えられ。
大小さまざまな商会が組みする『商人ギルド』の役員だった訳だけど、結社の“金脈”と呼ばれてた組織と敵対したことによって、表も裏の両界隈で一目置かれる存在へと急成長した。
これらは潰した商会の数も関係する。
潰し、潰されの仁義なき戦いにの果てにあるのは、妬みと怨みしかなく。
ウイズリー商会も、その連鎖には逃れられなかったという。
◇
現在も当主と商会長を務める大老。
ウトウィック・ウイグスリーという人物は、齢90の大代が見えてきても。
その精力の尽き果てる様子はなかった。
「俺の孫娘どもとは仲良くやってくれてるんだよな?」
彼のには息子たち、その孫にも娘は居ない。
で、あれば――。
そう、あたしたちのこと。
デキの悪いエルフに最大の愛情を注いでた。
ま、お爺ちゃんにはモテるんだよね。
あたしは。
商会長ウトウィック・ウイグスリーは2か月前から、人前に出ることを憚るようになった。
アイヴァーさんが事前に仕入れた情報である。
政情には多少なりとも影響はしたけど、直にやり取りするのは嫡男であるし。
他の息子たちも、各地域の店舗と商業エリアの販路拡大が忙し過ぎて、ウイグスリー商会が他国に与える影響は些末なことと“オオカミ”たちは考えた。
「ええ、手は出してませんけど。それよりも、会長? 痩せましたか」
そんな世辞はどうでもいい。
痩せましたかよりも、若返りましたか?の方がより現実的だったかも。
「“呪い”だ、そうだ。――丁寧に呪物まで送り付けてきた」
2か月余りで50代にも見える姿になっている。
若返りは、正真正銘“呪い”と同じ類のものだ。
運命を司る神。
この場合はすべてを兼ね備える乙女神が、その神秘性を用いて希望者の望みを叶える物語に。
でも、残る伝承の結末はどれも悲惨だ。
神は人の尽きない傲慢な欲望に『怒り』で応える――逆光する寿命で卵に返すというもの。
死ぬことで消滅するなら。
生が生まれる前に戻るのも消滅に成らないだろうか。
輪廻は巡るもの。
「で、いや、呪いの解呪が目的じゃないんですね?」
アイヴァーさんは一瞬迷った。
解呪すればウトウィック・ウイグスリー氏を助けられる、と。
それならば、魔術師を呼べばいい。
「察しが良くて助かる。結社の連中は“金脈”と名乗って、市場を転がすことに長けてた者だった記憶している。仇なすとしても、同じ土俵で仕掛けてくると思ってたのは俺の怠慢かもしれねえが。魔法となると、話も違ってくる。商会長が祟られたとなると」
商会の誰にでも当てはまる。
少なくとも呪術師には見立てて貰った。
「商会長の座に呪いが?」
「ああ。俺が降りれば解呪されて余命を楽しめるが、60少しの息子たちに業を背負わせちまう。これじゃあ、本末転倒だ。だからよ、頼めるかい? 残党ども根絶やしにしてくれると助かるんだが?」
解呪は。
ウイグスリーさんは優しく微笑み。
「俺が受けるもんだ。子供や孫には関係ねえ」
呪いを解けば、相手にも勘付かれる。
残り数か月。
その間に、敵を討つって物語だ。