アイヴァーのお使いクエスト 1
額面通りに受け取れば、
“ラグナル産チーズ”を手配しなければならない。
各地にネットワークを張っている乱破も、情勢に敏くて些事に疎い。
同胞でも困惑したことだろう。
「セルコットと一緒に、某国へ赴いてて助かったな」
あ、あたしのこと考えてるの。
アイヴァーさんたら、もう。
「あのおっちょこちょい、大事ないかな」
うん。
そうですよね、恋は遠い。
チーズは比喩でもなく、誰にも悟らせないための隠語と見るべきだ。
理由が分からなければ路頭に迷う言葉。
「これは、俺たち向けのメッセージ」
差出人も伏せられてたけど。
ラグナル聖国まで行けば、おのずとその疑問めいたものが晴れた気がした。
正門に掲げられた大商会の隊商旗。
事情が分からなかったら、聖都でも指折りの商会だから国旗と並んでいるんだろうって。
まあ、そこまで世間知らずだと。
いささか頭の作りに心配を覚えそうだ、が。
《なるほど、ウトウィック・ウイグスリーか》
◇
別れてから、数か月しか経過していない。
結社の自暴自棄によって酷く混乱したものだけども。
「蛇目のアイヴァーさんですね?!」
正門を超えたあたりで声を掛けられた。
衛兵詰め所からだが。
「こっちですよ」
頭上からだった。
出世したという兵士は、かつての捕り物に参加してシグルドさんらに助けられたという。
“蛇目”は、特徴の目から察したといった。
「結構、見ているもんですね?」
「ま、まあ。そういう仕事ですから」
門番だから。
職業病も過ぎると、非番でも街に訪れる人々を見てしまうという。
そうした経緯からきな臭さを感じ取ったと伝えてきた。
「つまりは、お使いではない?」
「申し訳ありません。こういう形でしか思いつかなかったので。いえ、簡単な仕事だと思われた乱破の方々も来てはくれて。でも、結局、この意味する理由が分からないと先ず」
そうだろう。
ウイグスリー商会に通すには、一見だって厳しい。
今は、聖都復興計画の長もやっているのだから。
滅多な人間は通せないのだ。
「とはいえ、私もすべてを見通している訳では」
鼻頭を掻いて見せた。
状況は理解している。
匂わせているのは“金脈”かそれに従ずる何かだ。
生半可な武力でもないし、聖都から人も割けない事態。
「引き受けるのは、先ず、御大に会ってからでも」
「さあて、会って引き返せない道はわりと多くありそうな予感だと思うのだが」