暗殺者の矜持 2
家人の言葉通りに、客間の多いつくりの屋敷だ。
シングルベッドがふたつでひとつの部屋が、7部屋。
1階の書庫や書斎などがある空間が家人のであろうから、そのすべてを除いてもかなりの規模だ。
屋敷の裏手にハト小屋がある。
日に何度か飛んでくるハト。
使用人のような少年が、ハトから書簡を抜き取ってた。
まあ、それが依頼書なのだろう。
◇
ハト小屋からいくばくもなく、奥に広がる農場。
子豚も含めると大家族みたいな豚小屋と、牛舎があった。
牧草地に放して草を食ませ、朝食のミルクは彼らが生産する――よくできたシステムだ。さて、乱破はこの土地に何世代で潜ってきたのだろう。
「そうさねえ、あたしで7代かな」
ハト小屋の様子を見に来た家人。
いつものように煙管をくゆらせてた。
「な、7代もか?!!」
気が遠くなる。
斥候と称して送られた特別な一族。
同族の中でもヒエラルキーは、最下層に位置し。
オオカミとして見られることのない、ハーフの犬種たち。
「ああ、そうだよ。エリートさん」
これは嫌み。
強靭な顎に、鋼をも裁断する鋭い爪をもたない、人狼としても不出来な連中のやっかみだ。
ワーウルフとワードッグの中間みたいに思われてるけど。
厳密にはワーウルフでもない。
犬種は間違いなくライカンだ。
「さて、朝食を用意した。食ったら、依頼書に目を通しておいてくれよ?」
働かざる者、食うべからずは一族の初歩の掟だ。
族長だって雑用も熟して長老らに認められるのだから、下っ端が高楊枝で踏ん反りかえるわけにも。
「仕事は?」
シグルドさんがハト小屋をみている。
足の書筒が気になってて。
「多岐にわたるよ? そうさねえ、代表的なのは暗殺の依頼だね」
ふああああ~ 物騒だよ。
でもない。
生計を立てる中で一番大きな収入となると、暗殺は重要だ。
次に妨害工作と、破壊工作だ。
これらの対象は、誰でもいいという訳ではない。
依頼を発注する者も、魔狼族が長年啓発してきた協力者たちで。
相手となるのは“結社に縁がある者”と、されている。
「――調査を重ね、ソレが結社の使いっパシリだって確信が持てれば、(首を親指で掻き切手みせる)漏れなく虚無に落ちてもらうのさ。まあ、すべてを殺して回ると結社はナリを潜めて表舞台から完全に消えちまうんでね」
なんとなく経験のような雰囲気に聞こえた。
「何事も、ほどほどが一番なんだよ」
シグルドさんらに見せる依頼書も――。
暗殺依頼から、素行調査までが含まれる。
「近場のをひとつ、ひとつ潰してくのもいいし。国を跨いで放浪してくれてもいい。その間に乱破が目標を探し出しておくさね」
恐らくは出会った最初の言葉に戻った気がする。
家人が背中を押すように。
1階の共同食堂へ。
卓上には湯気の立つベーコンエッグが用意されてあった。