メラート郊外に冒険者と、光の柱 3
使い魔のネズミは、T字路に差し掛かったとこで動きを止めた。
鼻先をひくひく激しく動かして。
チューって鳴いた。
「どったの?」
蒼炎の魔女が使い魔に問う。
ネズミはチューとしか鳴かないんだけど。
ついさっきまで会話で来てたのに。
使い魔契約が途切れたのか。
って――心配そうにしてた魔女の指先に毛があたる。
似た灰色のネズミが指先に齧りついてて。
『師、何処見てる?!』
T字路のネズミは、使い魔の子分。
同じ毛色だからすっかり見失ってたのだ。
「いて、いててて...」
『引き返そう! 師よ、ハトの奴が形勢が変わったと伝えてきた!!!』
テレパシーで繋がっている訳ではない。
彼らが縦穴にめがけて地表の様子を、木の実などを使って知らせてくれてた。
蒼炎の足元をちょろちょろと走って状況の把握に努めてた。
ゾンビたちの数も減ってるし。
偽ネイザーが逃走したことも筒抜けだ。
ただし。
落とした木の実に気が付いて貰わなければ、それも意味がないんだけど。
◆
偽ネイザー・ゾンビは、寄せ集めの衣類と骨や腐肉で生まれたキメラだ。
幸い頭は邪教の導師によるものだけど。
流石に逃げ帰られる拠点も何もない。
兎に角、彷徨うように走ってた。
息を切らして、オアシスに立ち寄る。
水面に映るゾンビにやや驚きながらため息――「こんな顔じゃあ、邪神さまに泣きつくことも」
どうするべきかと水を掬って。
「渇きが癒せない、だと?!」
水面に浮かぶ手首がある。
見知った骨だし、眼前に腕を挙げて眉間にしわが寄る。
まだ、そんな肉あったんだと。
ゾンビも不思議がったけど。
手首からすぱっと、切られてた。
切断されて痛みなんか全くないから、切られた感覚もない。
「こ、これは?!!」
気配はないけど、たぶん何か居る。
そんな蟲の報せみたいなもんが働くことがある。
偶にだから気になる報せなのであって、そもそも勘がいいやつならオアシスに立ち寄る前に、危機を嗅ぎ分けてただろう。
偽ネイザー・ゾンビの真横にくのいち・イクハが片膝をついてた。
「おっと、その指輪。返して貰うぜ?」
長身の男が浮かぶ手首を掬い挙げてた。
ゴールドチョーカーの冒険者がそこにある――ただし、その服装は邪教の導師そのものだ。
「他の導師たちが死体群を見て、冒険者が死んだと思い込んでくれたら好都合だったんだが、まさか教会からも魔女さんが派遣されるとは。思わなかったんでな、ゾンビに好き勝手させすぎた」
トレードマークのタワーシールドは無いけども。
彼が冒険者、ネイザー・へドンであるのは認識票も兼ねるゴールドチョーカーが首に巻かれている。
偽物にはチョーカーがないし。
「ふふふ、俺をこの場で、殺すのか?!」
「ああ」
「メラート郊外の廃村に、魔女がいる...俺を殺せばスタンピードは止まらないぞ!!!」
らしく聞こえたけど。
イクハは否を告げた。
「それは無い! だってあそこには帝国の剣士たちがいるから」