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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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武王祭 4

 祭りの真っただ中で起きた珍事件は、雑踏の中に埋もれた。

 クリシュナムからきた三人の耳にも入らなかった。

 これは幸いかも知れない。

「外見変異の薬の効果は現状、接種してから5時間までもつ。ただし外見が、完全に変異し終えるのには約、1時間30分という予備動作があるんだが......」

 研究の全般は、和装の男が受け持っていた。

 一応、彼は錬金術師でもある。

「では中央値は?」

 喰いつくのは、館の実質の当主だ。

「2時間か3時間だ。ここに個人の素質が絡んでくる」

 改良によって、効果時間は飛躍的に伸びた。

 服用回数が限界値を越えない限りは、本来の種族枠から食み出すことは無い。

 よって、魔法に頼ることなく安全に変身できる。

「個人差が気休めか」


「効果時間は飛躍的に伸びた。が、反作用は個人差でまちまちだ...特に依存度については、本当に個人差なんだ」

 中毒による毒性効果に難がある。

 求めない人もいれば、盗んででも欲しがるタイプもある。

 そういうのは限界摂取量のタガも、無いに等しい。

「まあ、儂には1回でこと足りる」


「そうであって欲しいよ」

 1回が厄介という話。

 人にはそれぞれ、大なり小なりの“変身願望”がある。

 旨い話ほどに下手の打ちどころも大きくなり、リスクは増す。


 その変身願望は、ひとそれぞれの理性で枷がついてる。

 ここにいい薬があるから――って言っても飲まない人間の方が多いだろう。

 それが第一の関門。

 1回だけだからってのは、無い。

 ボーダーラインを越えた瞬間にタガが外れるのだ。

《何の躊躇なく1回でいいといったな、老体よ。それがお前の()()()だ!》



 はぐれたポール君は、あたしたちの宿に向かった。

 女神正教会側で用意した、福音の耳鳴り亭という食堂。

 その離れが宿屋として開業している。


 というか、一般向けじゃなくて。

 ポール君が入ろうとしたら、聖職者の方々から物凄く白い目で睨まれたという。

 まあ、本人も何で?! と考えたという。


 で、だ。

 扉を開けた瞬間に飛び出してきた、純白の法衣姿の尼さんにグーで殴られたとか。

「うああああ!!!! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい...」

 殴り倒しておいて、謝罪も何もあったもんじゃない。

 しかもヒールじゃなくて、カース。

 呪いまでかける始末。

「死んでください、死んでください、死んでください」

 だって。

 その宿は男子禁制の修道女宿泊施設。

 そりゃ、白い目で見られるわ。

 お祭りの期間中だけ、神殿騎士団にも貸し出されるんだけど...その騎士団は皆、女性という。

 まあ、いいや。


 ポール君ほどの手練れが襲われたのは、不意打ちだったから。

 しかも両手に買い物袋という手枷まであった。

 これでは彼でも避けられない。

「何事ですか!?」

 店主の神父が買い出しから帰ってきた。

 店内は聖職者も多いけど、一般客もある。

 それらに配慮して、ポール君が店の奥へ消えても追わなかった。

「し、神父さま!!」

 神殿騎士の一人が取り乱している。

 法衣っぽいのは鎧の下に着ている防具のひとつで、長衣に施された魔法は秘跡であると言われてた。

 ま、詳しい事は分からないけど。

 魔除けに成るんだとか。


 あとは、神殿騎士らの()()()から、視認を阻害させる効果付きとか。

 騎士とか言っても、普通に美味しそうな果実をぶら下げた女の子だからね。

 鎧剥いたら、さ。

「この青年に何年分の呪いをかけたんですか!!」


「わ、わかりません。無我夢中で」

 片手で顔を覆う。

 見た感じでは殴られた傷の方が致命的に。

「先ずは相手が何者かであるかを確認なさい! この方も、どういう訳か()()のゾディアック・ソードマスターであられる。...本来ならばあなたの攻撃をいなせる筈ですが」

 と言い終える前に、彼女は荷物を指さしてた。

「この珍獣がもってました」

 ――で、納得。

 納得してくれたのだ。

 あたしと、紅の関係者だってことを。

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