魔女とネズミとゾンビ 5
地下水路と地上との差は、まあ、5メートルくらいしかない。
元々は村の下水目的で作られたんだけど。
村長は、有事の際の出入り口として拡張工事を行った。
それが今、使い魔と蒼炎の魔女が利用する通路だ。
◇
ガス溜まりを起こさないよう。
村長は、この水路に縦穴を用意した。
まあ、当然。
自分たちが村の外へ、侵入者に気が付かれずに、脱出するためのものであるから。
その通路の全長はやや、長くなった。
結果、空気の通り道も必要になったのだ。
ダンジョンだって人工と、それ以外では決定的な差がある。
“呼吸のし易さ”だが。
近年の冒険者ギルド調べでは。
アミューズメント的な人工ダンジョン経営で苦労させられるのは、新鮮な空気の確保となる。
地中に潜るのだから、ガス溜まりや地下水脈への引きは避けたい。
なんせ、ガスは爆発。
地下水脈は水没の恐れがある。
天然のダンジョンは自然と一体化した魔法の空間で。
えっと。
何の話だったっけ?
そうだ。
竪穴の先、地表には穴が開いている。
普段は茅葺の傘が被せられてて『なんだ、コレ』的なオブジェクトなわけだが。
その傘を取る。
いや、無作為に取られた先に。
蒼炎とノラ牛と目が合ったとこ。
じっと見られて。
『師?』
動物の世界では、目線を外したものは“弱者”になる。
あ、冒険者たちが横やりを入れたんで。
デミミノタウロスたちのタゲは彼らに移動する。
「ありがたい、今のうちに」
ネズミを急かして、
よちよち這い出したところで――『おやおや? このメスの香りは、ああ、ああ。魔女さんデスか?』
5メートル上にある地表から。
空気の竪穴を伝って木霊する声。
偽ネイザーさんのものだろう。
『使い魔を方々に飛ばして、食事を届けさせるとは。見事な采配でしたよ!!』
余裕のありそうな声色。
手練れだと思われる冒険者の集団と対峙してても。
偽ネイザー・ゾンビは焦らない。
それとも悟られないように?
『ここいらを片付けたら、また、お会いしましょう』
◆
あたしは聖女としての乙女神を讃える。
紅の修道女である後輩から補助を受けて――
御使いが驚きながら降臨し、あたしのまわりで『どうした? 改宗なんてらしくない』『お前なら拳でブイブイ言わせてやるとか、そんな感じじゃないのか』なんて具合に、変な方向で心配された。
祝祷。
天使の降臨。
天界からの聖なる火によって、だ。
見渡す限りが燃やされた。
黒い靄。
黒い粘着質。
黒い人影が浄化されて、跡形もなく炭化する。
「燃えちゃった?!」
『ばっちぃっすから』
乙女神の御使いだ。
容赦がねえ。
心がやられてた神父たちには張り手が贈られる。
気合が入るだって話。
ほ~。




