異世界の新年とは、
自分たちのいる世界が“異世界”だって認識はない。
ちょっと自然が人類サイドに厳しいなあくらいの感覚しかなくて。
また、この厳しさも。
ごくごく普通なことだ。
国家とは。
大きく出たように思うかもだけど。
国家とは、その守護領域にある国民を守るシステムでしかない。
もともとは、荒野で逞しく生きていた開拓民たちが、肩を寄せ合って生まれた集落から。
指導者を得て、より豊かに生活ができるよう。
発展していった先のもので。
まだ、これでも...
未発達だっていう人もある。
◇
さて。
島大陸を含めた、各地の国家は大なり小なり、新年の祝い。
宴をもうける習慣がある。
あたしが知ってる祝祭で一番、華やかだったのは。
やっぱりドーセット帝国のものかな。
荘厳な教会に蝋燭が掲げられ。
不謹慎ながら「ぎゃーっ!!! 教会がーっ、燃えてるー!!!!」って叫んでしまって。
準備してた教徒の方々を驚かせてしまった。
あれは、世間知らずもいいところだった。
司祭長さんからめっちゃ怒鳴られたっけ。
まあ、やらかしというと。
乙女神さまに祝福された、(帝国の守護)騎士たちには“酒”と“肉”が自由に振舞われてたことで。
帝国騎士見習いだったあたしもご相伴に預かり、食っちゃ呑みしてたんだけど。
先輩騎士に目撃されて、尻を叩かれたっけ。
あれはアフターケアが良かった。
叩いた先輩が「やりすぎた」って尻に塗り薬を。
そのまま――
あの指太くて気持ちよかったなあ。
「全部、先輩の失敗談じゃないですか!!」
ん、その声は。
「新年の祝いはすべての国が休日、あるいは7日の間は、戦争も許されない時期になります。教会ではこれを“はじまりの刻”といいます。各地ごとに呼び方も違いますが、おおむねそいうことで」
どういうことで。
「前日まで紛争中だった国同士も、新年の祝いでは国民に奉仕する必要があるんですよ。例えば暮れに重税を課したなら、“はじまりの刻”の期間中は炊き出しだとか、村落の修繕を行うとか。国家だけでなく貴族たちにも特権階級者はすべて、責任を十全に果たす義務がある」
むー。
守られない場合は?
「天罰が落ちますね」
そんな眉唾なあ。
敬虔な乙女神教団ならいざ知らず。
誰が...
「そんな不信人だと、足の小指。角に打ち付けて泣きを見ますよ!!」
後輩の言葉通りにその夜。
藁葺きベッドの脚で、小指を勢いよくぶつける。
小さな天罰だが。
くそ痛い天罰だ。
乙女神と祝う新年の話。