魔女とネズミとゾンビ 4
危機を知ったネズミは、魔女の下へ走った。
四つん這いだったのが二足歩行で全速力――屋根裏へ駆け上がると『師、今すぐに地下水路へ!!』。この厩舎に逃げ込む前、長老宅から逃走した時に使った地下の道。中腰よりも窮屈で、彼女の四肢では四つん這いになっても厳しい狭さだ。が、これならゾンビのネイザーから追われる心配はない。
ま、女性型ゾンビだと少し不安が残るし。
子供のゾンビは恐怖でしかないな。
教会が職場だと、聖水は腐るほど調達が出来る。
普通の水にロザリオを投げ込み、祈れば、簡易聖水が出来上がるけど。
威力は通常が100なら、20~30の微ダメージといったところか。
怒らせたい一点なら間違いなくタゲが取れる。
さて。
地下水路に逃げ込んで、兎に角、使い魔の尻でもみながらついていく。
ズシン、ズシンって鳩尾の深いところにまで響く重低音が、だ。
これがデミミノタウロス。
あたしらが美味しく頂いた野牛のモンスターの足音だってのは。
時々心配そうに振り返るネズミが教えてくれた。
他者からネズミを見ると。
チューチュー鳴いてるようにしか見えない。
まさか人語を理解して、受け答えが出来るような芸達者とは。
とてもとても。
蒼炎のファミリアに招待されれば、
彼女の賑やかな使い魔たちの合唱なんかを聞くことが出来るようになる。
まあ、そこまで心赦せる友となれるかは。
あたしもよく分からない。
『冒険者が来てくれたようですけど?』
蒼炎は無言。
教会と冒険者ギルドの関係は最悪だ。
前にも記したけど。
教会にとっての神秘とは貴重な歴史・文化財産である。
保管と同時に学術的に解き明かす必要があるんだけど。
冒険者にとっての神秘とは神からの贈り物でしかなく。
啓示によっては処分したり、切り売りしたりする。
術式の機能を効果的に止めるのは、壊すことだ。
乙女神にとっては教会が後生大事に“聖遺物”だと言って安置したり、崇拝したり、証明したりする行為を決して認めている訳ではない。自分の恥ずかしい黒歴史なんか捨てたいと思うのは、人も神も同じだってことで。
蒼炎としても。
《なんで、冒険者らが来ちゃったんだろう?!》
内心焦りが背中と、パンツを汗だくにしていた。
これ、地下水で良かったよマジで。
パンツの汗ばみなんか、さ。
下手したら香ばしくなるじゃんよ。
こう、ぽっこり下腹と脚の付け根の間とか。
チーズまでいかんとも。
う、うーん。
くんくんされたら。
オイルサーディーンみたいな、ね。
『師!』
「は、はい」
俯いてた蒼炎は、勢いよく後頭部を天井に打ち付けた。
一瞬のことだったし。
“痛ッ”一言、叫ぶ前に突っ伏してちょろちょろ流れる水に沈んだ。
ちと、間が。
『静かにって...いう意味でした』
ああ。




